ジャパンハートの活動を知ってもらうために開催された「ジャパンハート現地視察ツアー」。
5日間でカンボジアとミャンマーの各施設を周り、実際のリアルな現場の様子や子供たちとの交流を通じ、参加者は何を”持って帰ってきた”のでしょうか。今回はツアー参加者の1人、旭酒造桜井一宏氏をお迎えし、ツアーに参加したキッカケや、ツアーに参加して感じたことなどを聞いていこうと思います。
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ジャパンハートというチーム
— まず最初に、ジャパンハートを知ったきっかけとツアー参加に至るまでの流れについて教えてください。
桜井きっかけとしては、今年の4月に参加した経営者サミットの告知映像です。
そこで吉岡先生が登壇することもあり、活動の様子が流れたのですが、その内容に大変ショックを受けました。
そして「絶対に吉岡先生の話を聞きたい」と思い、吉岡先生がご参加されるチャリティーガラディナーに参加したところ、やはり感じるものが多く「具体的に何かをしなきゃいけない」と感じるに至ったわけです。
そこでまずはジャパンハートに寄付をしましたが、それ以上に「もっと自分にできることはないのか」と考え、「まずは実際に現場に行こう、実際の姿をきちんと見よう」と思い、その場で隣に座っていた小林正忠さんとツアーの参加を決意した、という流れです。
— サミットで初めてジャパンハートの活動を知り、その場で現地に行くことを決心されたのですね。
しかし、多忙な中で即断即決するには、スケジュールの調整など難しい点もあったと思いますが、それを押し切ってでも「現地に行きたい」と思わせた強い動機はどこからきたのでしょうか?
桜井それはまず何より、吉岡先生自身のバイタリティや信念の強さから来る魅力ですね。
ただそれ以上に驚いたことは、ジャパンハートの皆さんがチームとして「一つの信念」で動いている部分。一体感があり、チーム全体が全く同じ方向に向かっていると感じたのです。
— 「組織としての一体感はどこから?」という問いが生まれたのですね。
桜井私も経営者として、チームが一つになることの難しさは心得ています。
だからこそ「そんな場所があるなら見に行きたい」と思い、決断できたわけです。
ただ、こういう時に「いつかタイミングが来たら…」と先送りにすると、その後は大体行かないんですよ。無理にでも行くことに決めてから、後付けで仕事を組む形でもなんとかできるものです。
私の場合は、ツアーの前後でシンガポールへ出張したり、現地のディストリビューターに会ったりしました。
とはいえシンガポールも国は違うので、夜まで仕事して早朝フライトでミャンマーに入ってツアーに参加するという感じになってしまいましたが、とにかくなんとかなりました。
— なかなかタフですね。
ここからは、そのように多少無理をしてでも実際に参加してどうだったのかについて伺っていきます。
まず最初にミャンマーの児童養育施設「Dream Train(ドリームトレイン)」に行かれたということですが、ここではどんな体験をしたのでしょうか。
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未来に繋げる場所「Dream Train」
桜井その子どもたちの普段の生活や教育現場を見たりしながら、現地の皆さんと交流してきました。
ミャンマーのお化粧「タナカ」を塗ってもらったり、日本語の歌を歌ってくれたりと、とても明るく歓迎してもらったのですが、一方で実際ここにいる子たちは、親がいなかったりお金がなくて学校に行けなかったりといった「やりたいことが簡単にはできない」という現実があります。
それでもみんな笑顔で前向きで、置かれた環境を理由に「不公平だ!」と嘆くことなく、何事にも希望を持って取り組んでいる姿に大変感銘を受けました。
その時も、日本語弁論コンテストにチャレンジしている子がスピーチを披露してくれて、「コンテストで賞を取ったら、日本にも行けるんだ」と目を輝かせており、この場所にいる全員が夢に向かっている様子がたくましく、まさにドリームトレインだと感じました。
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— 写真でも楽しそうに交流している様子が写っていますね。
桜井はい。それ以外にも、教育面ではパソコンで授業を受けたり、プログラミングを学んでいる姿が印象的でした。
— 想像していたより先進的ですね。
桜井これは、ドリームトレインが今だけでなく、未来を見据えているからこその教育スタイルだと思います。
単に身寄りのない子どもたちを受け入れるだけではなく、その子どもたちが社会に出て経済的に自立できなければ、結局意味がないわけで、ここではビジネスマンとして求められる人材の育成を視野に入れている。
だから今後求められるビジネススキルの一つとして、プログラミングの授業があり、実際にここでプログラミングを学んだ子をインターンとして雇ってる企業があるなど、ジャパンハートの目線の高さを感じましたね。
— 受け入れ側のジャパンハートが「未来を見ている」からこそ、Dream Trainの子どもたちも前向きで夢を見られているのかもしれませんね。
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リアルを伝えることへの使命感
— 次の日にはカンボジアのジャパンハートこども医療センターを訪れたそうですね。
桜井はい、ここでは施設内を案内してもらったり座談会などをおこないましたが、一番衝撃的だった事は手術の立ち会いです。
— お写真でもその様子を拝見しましたが、オペ室の中にいらっしゃったのですよね。
桜井はい。それもあってかなりリアルでした。「日常と死はこんなにも隣り合わせだったのか」と思いましたね。
実はこの時、胸の腫瘍切除という少し難しい施術中で、現地スタッフを見守っていた院長の神白先生が途中でいきなり代わる場面がありました。後から「あのままだと危険な可能性もあったので私が入った」と聞かされて、「命に直接関わる現場とはこういうものなんだ」と改めて痛感しました。
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— 今、桜井さんのお話を聞いているだけでも、すごい胸がざわつきます。
桜井ある意味、「ゲスト」として来た私たちに対しても、きれいなものだけを見せるという演出は一切無く、徹底的に「リアル」を見せる場所でした。だからこそ、「前向きに生きているこの子どもたちを救いたい」と感じることができたのだと思います。
この医療センターでは、「現実を正確に知ってもらう」ことを第一に考え、そのリアルさが受け手に「変えていかなければいけない」と実感させてくれるのです。
— なるほど。参加者をオペ室に通したのも、参加者が主体性を持ち、次のアクションに繋げるためのメッセージだったのかもしれませんね。
桜井そう受け取っています。
また、ツアー参加者が経営者の方が多かったこともあり、座談会では経営やチームマネジメントの話も多く出ました。
その中で、吉岡先生が「自分が現場に出すぎることは弊害にもなりうる。次の人間を10人、20人と育てることが重要だ」とおっしゃっていて、まさに経営者としての視点だなと思いました。
この話は、経営における「ワンマン経営者の課題」を考える上でのモデルケースにもなりますよね。
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— 吉岡先生は人格者としてだけでなく、経営者としても学びを与えてくれる存在なのですね。
桜井まさにそうです。先ほどお話した通り、私が見学した手術の担当も現地のスタッフで、あくまで吉岡先生や神白先生は補佐という役割でした。
ここからも、一貫して「未来を見据えたアクション」を選び抜いていると感じましたし、結果としてチーム全体に「カンボジアとミャンマーの未来を変えるんだ」という思いが共有され、一体感が生じたのだと思います。
— ジャパンハートの一体感はその未来志向にあるのですね。
では実際、桜井さん自身にも変化はありましたか?
現地から持って帰ってきたものを次に繋げる
桜井帰国後は「自分にできること」を行動する日々を送っています。ただ、率直に言うと大きな行動を行うというより、自分にできる小さなことを積み重ねているという感じです。
一緒にツアーに参加した方々もそれぞれの方法で動いていて、私も大きなことはできませんが、小さなことから積み重ねることで、数年後に大きな変化につながることを目指しています。
— なるほど。今後はどのような形でジャパンハートとつながっていきたいと考えていますか?
桜井私の会社は日本酒という嗜好品を作ってる会社なので、社会が安定していないと絶対に成り立たないビジネスです。
そういう意味でもジャパンハートの「未来を良くしていく活動」と、「お酒を売れる社会を作る活動」すなわち「マイナスをプラスにする活動」は方向性が近いと言えます。
私はそれを横から「社会が安定したらお酒たくさん売るから頑張ってね」なんてできるわけもなく、どうすればお酒を売ることでマイナスをプラスにできるのかを常に考えています。
現在動き出しているのは、「カンボジアでお酒を飲んでもらうイベント」を企画し、そのイベントを通じてジャパンハートの活動を知ってもらったり、収益をジャパンハートに寄付していただいたりする取り組みです。
お酒はコミュニケーションツールとして非常に強いので、そうした部分でお役に立てる方法を考えていきたいですね。
— ツアーから1ヶ月も経たずに具体的な行動を始めているのですね。
桜井「本業を頑張ることが支援に繋がる」という形が一番理想的だと思っています。
支援はお金だけではなく、いろいろな形があると思うので、その可能性を模索していきたいです。
— それこそ冒頭の問い「もっと自分にできることはないのか」の答えの一つですね。
最後に、ツアー全体を通して感じたことや、今後ツアーに参加予定の方へのコメントがあればお願いします。
桜井ツアーに参加すること自体の意義はもちろん大きいですが、ハードルはそれほど高くないと思います。
吉岡先生に対して「すごく変わったおっちゃんを見てみたい」という興味本位でも良い。
私もそういう気持ちもありましたし、純粋な興味から参加しました。
それでも現場に行けば必ず何か伝わるものがあります。ですから、とにかく現地に行くことが大事だと思います。
— 現地に行った桜井さん自身が、今、支援イベントを企画していることからも、すごく説得力のある言葉ですね。
桜井あと少し付け加えるとしたら、ジャパンハートは「日本を背負って海外で活動しているモデルケース」と捉えるべきだと思います。それは、海外でビジネスを展開する上でも非常に参考になる部分が多いです。
また、彼らが活動していることは、日本から世界に出ていく皆のメリットに結局なっていきます。「自分たちの国を助けようと努力しているあの団体がある国から来た」という共感は、その国に入っていく時に大きな武器になっていきます。
— なるほど。だからこそ経営者の方がこのツアーに参加し、帰国後もつながり続けるのかもしれませんね。
桜井そう思いますね。そして何より「一体感のある良いチーム」を是非体感してほしいですね。
本当に学ぶところばかりですし、パワーをもらいました。
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(取材日:2024年11月 writer:越野和馬)
プロフィール
桜井 一宏(さくらい かずひろ)
旭酒造株式会社 代表取締役社長/4代目蔵元
1976年生まれ、山口県周東町(現岩国市)出身。早稲田大学を卒業後、酒造とは関係のない東京のメーカーに就職。東京の居酒屋で「獺祭」のおいしさに気づき、2006年、実家に戻る形で旭酒造に入社、常務取締役となる。2013年より取締役副社長として海外マーケティングを担当、主にニューヨークで海外進出の礎を築く。2016年9月、代表取締役社長に就任、4代目蔵元となる。2023年9月にはニューヨーク・ハイドパークに同社初の海外拠点となる「Dassai Blue Sake brewery」がオープン。日本と同様に山田錦のみ、純米大吟醸のみで酒造りを開始する。銘柄名は「DASSAI BLUE」。