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この命を救いたい 混乱続くミャンマーからの挑戦【後編】

up 2023.08.01

混乱続くミャンマーからの挑戦

ミャンマー、カンボジア、ラオスの東南アジア3か国で医療活動を行うジャパンハート。 今回、混乱が続くミャンマーから2歳の男の子をカンボジアに移送し手術を行うという大きなプロジェクトに臨みました。

活動レポートの後編では手術当日やその後の治療の様子について詳しくお伝えします。
2歳の男の子を救え 混乱続くミャンマーからの挑戦【前編】はこちらから

本プロジェクトへのご寄付を受付け中です。詳細は以下をご覧ください
【ご支援受付中】 医療崩壊中のミャンマーから2才の男の子を移送・手術へ

(カンボジア広報・藤田陽子)

アウン・カン・モーの病状は

今回、アウン・カン・モーの治療を担当したのは、日本人とカンボジア人の医療チームです。手術の執刀医を務めたのは国立病院機構岡山医療センターの小児外科医長、中原康雄医師。

約2か月に1度のペースでカンボジアを訪れ、小児がん手術などの治療活動や若手医療者の育成に協力してくださっています。

「現状、ミャンマーの小児外科医療は非常に厳しい状況に置かれていると聞いています。必要な治療を受けられずに命を落としている子どももいるはずです。医療を必要とする子どもたちに治療を施したい、ただただそう考えています」(中原医師)。

過去にはミャンマーで手術活動を行った経験もある中原医師。技術が役立つのであればと協力を申し出てくださいました。

混乱続くミャンマーからの挑戦

【中央が中原康雄医師】

アウン・カン・モーが患う「臍帯ヘルニア」は、生まれつきお腹の壁に大きな穴があいていて、その穴から肝臓や腸などの臓器が飛び出している状態を指します。今回の場合は、へその緒の膜が大きな袋のようになって、本来はお腹の中にあるはずの肝臓や腸管の大部分が飛び出していました。

そのため、今回の手術では袋のなかの臓器をお腹に戻し、袋を小さく縮めることを目指しました。ただ、アウン・カン・モーは2年以上もの間、必要な治療を受けられずにきたため、同年代の子どもに比べてお腹の容積が十分に育っていません。

袋の中の臓器を全て一度に戻すと他の臓器を圧迫して容体が急変するリスクがあるため、今回は一部の臓器のみを戻し、お腹の容積が育つのを待って、再度、手術を行うことになりました。

5時間に及ぶ大手術

手術前は2日間の絶食となり、ぐったりした様子で手術当日を迎えたアウン・カン・モー。
看護師が呼びに来た時もまだ寝ていて、何が起きているのかよく分かっていない表情のまま、お母さんに抱っこされて手術室に入っていきました。

「手術を頑張って、早くお姉ちゃんとお父さんがいるお家に帰ろうね」。

手術の前、お母さんがそう声をかけると、「うん」と頷いていたそうです。手術室では大声で泣き叫んだり暴れたりする子どもも少なくないなかで、お母さんの目をじっと見つめて、静かに不安や恐怖と闘っているように見えました。

混乱続くミャンマーからの挑戦

【手術の様子】

そして始まった手術。

手術前は気丈に振舞っていたお母さんですが、息子を手術台の上に乗せて手術室を離れると、一気に不安がこみ上げてきたようです。病室に戻ると涙を流していました。

その後も病室と手術室の前を行ったり来たりして落ち着かない様子でしたが、ミャンマーから同行した馴染みの看護師が付き添い、病棟の外でゆっくりと気持ちをはき出すことが出来たようで、しばらくすると穏やかな表情に戻りました。

手術が終わったのは、およそ5時間後。

ICU=集中治療室に移ったアウン・カン・モーは、手術前とは打って変わって大きな声で泣き続けていて、お母さんは逆にほっとしたようです。隣に寄り添い、穏やかな口調で声をかけていました。

予断を許さない日々

混乱続くミャンマーからの挑戦

【ICUでの様子】

アウン・カン・モーはその後1週間ほど、ICUで過ごしました。

人工呼吸器は必要なく比較的落ち着いた状態でしたが、それまで外に出ていた肝臓や腸管の一部をお腹の中に戻したことで他の臓器にも影響があり、最初の数日間は呼吸が苦しそうでした。

それでも、看護師が中心になって24時間態勢で付き添い、少しずつ回復していったアウン・カン・モー。数日すると体を起こしてベッドの上で座れるようになり、大好きな豆乳も少しずつ飲めるようになっていきました。

約1週間後には点滴も全て外れ、もといた病室へ。
同じ部屋で過ごす他の患者さんも自分のことのように喜んで、笑顔で迎えてくれました。

手術前から緊張した表情が続いていましたが、少しずつ表情が柔らかくなり、笑顔も見せてくれるようになりました。

混乱続くミャンマーからの挑戦

【しゃぼん玉で遊ぶアウン・カン・モー】

同じように治療を待つ子どもたちのために

クーデター後の混乱のなかで、医療崩壊に陥るミャンマー。
ジャパンハートが活動する「ワッチェ慈善病院」にも各地から患者が殺到しています。

今、ミャンマーにはアウン・カン・モーと同じように治療の機会を待つ子どもが数多くいます。そして、医療機関に辿り着くことすら出来ず、人知れず命を落としている人も大勢いるはずです。

今回、カンボジアに渡り手術を受けられたことについて、アウン・カン・モーのお母さんは次のように話していました。

「今、ミャンマーでは大勢の子どもたちが治療を待っています。私たちもワッチェ慈善病院でジャパンハートに出会っていなければ、今も手術を受けられず、困っていたと思います。

 今回、こうしてカンボジアに来られたことに本当に感謝しています。言葉が違うのでコミュニケーションには苦労しましたが、病院のスタッフや他の患者さんたちが自分の家族のように私たちのことを見守ってくれているように感じました。本当にありがとうございました」。

治療の機会を待つ子どもたちに医療を届け、1人でも多くの命を救うために。
私たちは引き続き活動を続けていきます。

カンボジアスタッフ 藤田藤田陽子 カンボジア広報

2023年4月からカンボジアを拠点に広報として活動している藤田です。
大学卒業後は記者として報道機関に勤めていましたが、支援を必要とする人々に寄り添う仕事がしたいとジャパンハートに入りました。ジャパンハートに関わる多くの人の声をどんどん伝えていきます!


▼ミャンマー プロジェクトの詳細はこちらから
ミャンマー

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