2021年のクーデター以降、混乱が続くミャンマー。
医療者による大規模なボイコットが発生し、そのしわ寄せが子どもたちにも及んでいます。
ミャンマーで活動する医療NGOとして、いま私たちに何が出来るのか。
ジャパンハートは今回、2歳の男の子をミャンマーからカンボジアに移送して手術を行うという大きなプロジェクトを実施しました。
治安の悪化が続くなかでの国外移動、言葉が通じない環境での治療…。
多くの想定外が起こりうる難しい挑戦でした。
けれど、救えるはずの命が目の前にあるのに、ただ静観する訳にはいかない。
いま私たちに出来る最大限のことをしたい。
そうした思いで組織一丸となり、国境を越えて今回の挑戦に臨みました。
今回の活動レポートでは、前編と後編に分けてこのプロジェクトについて詳しくお伝えします。また、本プロジェクトへのご寄付を受付け中です。
詳細は以下をご覧ください。 (カンボジア広報・藤田陽子)
長引く混乱 子どもたちへの影響
【アウン・カン・モー 今年5月】
アウン・カン・モーは2歳の男の子。
クーデター直後の2021年3月にミャンマー北西部で生まれました。
胎児の頃にお腹の壁が正常につくられず、へその緒(臍帯)の中に腸などの臓器が入り込んだままの状態で生まれる「臍帯(さいたい)ヘルニア」を患っています。
本来であれば、生まれてすぐにへその緒の中の臓器を元の位置に戻すための手術を受ける必要がありましたが、情勢に翻弄され、治療を受けられずにきました。
背景にあるのが、ミャンマーで続く医療者のボイコットです。
国公立の医療機関に勤める医療者たちがクーデターへの反対の意思表示として大規模なボイコットを起こし、2年半が経った今も多くの医療機関が機能不全の状態に陥っているのです。
多くの医療者が国の未来のためにと命がけでボイコットを続ける状況。
一家が暮らす地域で唯一、小児外科医療に対応していた国公立病院の医師たちもボイコットに加わっていて、病院の手術室は今も閉じられたままです。
両親は親戚や知人からお金を借りて私立の病院に行ったこともあるそうですが、1回あたり約3万円という高額な治療費を払い続けることはできず、自宅で経過観察を続けるほかありませんでした。
1年以上もそうした状況が続いた後、お母さんが地域の人を通じてジャパンハートのミャンマーでの活動拠点である「ワッチェ慈善病院」について知り、受診してきました。
ミャンマーでは治療できない
【生後約3か月のアウン・カン・モー】
初めて私たちのもとにやって来たアウン・カン・モーは、腸や肝臓など本来お腹の中にあるはずの臓器の大部分が外に飛び出していて、元気に生まれてきたこと、そして、2年以上も大きな問題なく生きてこられたこと自体が奇跡のような状態でした。
すぐに手術が必要なことは明らかでしたが、「ワッチェ慈善病院」には手術室はあるものの、人工呼吸器をはじめ手術後の管理に必要な十分な設備がありません。
そこで私たちは、アウン・カン・モーをより設備が整ったカンボジアの「ジャパンハートこども医療センター」に移送して手術を行うことを決めました。
ミャンマー・カンボジア・ラオスという東南アジア3か国で医療活動を行うジャパンハートですが、東南アジアの活動地の間での国境を越えた患者の移送は初めての試みです。
実行に移すのは簡単ではありませんでした。
パスポートやビザの取得、最大都市のヤンゴンから直線距離で600キロ近く離れた「ワッチェ慈善病院」からの移動、さらに移送や治療にかかる費用の確保…。
さまざまな準備や手続きに想像以上に時間がかかり、実際にカンボジアに出発できたのは初めて私たちのもとに来てから1年後の今年7月でした。
3か国での募金呼びかけ 支援の広がり
【クメール語版Facebookでの寄付の呼びかけ】
想定外の連続だった今回のプロジェクト。なかには嬉しい想定外もありました。
渡航を前に日本・ミャンマー・カンボジアの3か国で支援を呼び掛けたところ、SNSで情報が拡散され、わずか1週間足らずの間に600人を超える人たちから日本円にして80万円あまりの寄付が集まったのです。
困難な状況のなかでも国境を越えた支援の輪が広がり、私たちがやろうとしていることは間違っていないと、背中を押してもらったように感じました。
丸2日かけてカンボジア入り
【丸2日かけてカンボジア入り】
そして今年7月2日。
アウン・カン・モーは、お母さんとミャンマー人の看護師に付き添われてカンボジア入りしました。
大好きなお姉ちゃんとお父さんとの別れ。そして、初めての外国。
移動中はずっと不安な表情を見せていましたが、車と飛行機を乗り継ぎ、丸2日かけて無事にカンボジア・カンダール州にある「ジャパンハートこども医療センター」に到着しました。
到着してからも移動の疲れや慣れない環境への不安からか戸惑った表情を見せていたアウン・カン・モー。最初の2日ほどは常に泣き出しそうな表情で、お母さんに抱き着いたまま離れないような状態でした。
ただ、少しずつ新しい環境での生活に慣れていき、おもちゃで遊んだり、病棟内を散歩したりする余裕も出てきて、見守る私たちもほっとしました。
次回の後編では迎えた手術当日の様子や、その後の治療の進捗についてお伝えします。
藤田陽子 カンボジア広報
2023年4月からカンボジアを拠点に広報として活動している藤田です。
大学卒業後は記者として報道機関に勤めていましたが、支援を必要とする人々に寄り添う仕事がしたいとジャパンハートに入りました。ジャパンハートに関わる多くの人の声をどんどん伝えていきます!
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