ジャパンハートの活動を知ってもらうために開催された「ジャパンハート現地視察ツアー」。
5日間でカンボジアとミャンマーの各施設を周り、実際のリアルな現場の様子や子どもたちとの交流を通じ、参加者は何を”持って帰ってきた”のでしょうか。今回はICCパートナーズ株式会社代表の小林雅氏をお迎えし、ジャパンハートとの出会いから、視察ツアーに参加して感じたことなどを聞いていこうと思います。

吉岡秀人を知ってほしい
— 本日はよろしくお願いします。
今回で3回目となるこの「視察ツアーレポートインタビュー」ですが、これまで楽天の小林正忠さん、旭酒造の桜井さんにそれぞれインタビューをさせていただきました。
その際にお二人がツアーへの参加を決めたきっかけとして、小林さんが2024年4月に主催した「ジャパンハート設立20周年記念チャリティーディナー」を挙げていました。
ということで今回はジャパンハートとの架け橋のような役割も担っている小林さんからお話を聞いていきたいと思います。
早速ですが、ジャパンハートそして吉岡先生との出会いについてお聞かせください。
小林前の会社で「インフィニティベンチャーズサミット(現IVS)」というIT業界の経営者や起業家が集まるイベントの責任者をやっていたのですが、そのイベントで異分野の人を登壇者として呼んでいました。
例えば将棋の羽生善治さんとか、登山家の栗城さんとか、そういった方々を呼んで、知らない世界を知ってもらおうというのが狙いです。そんな中、次のイベントの登壇者を探しているときに、たまたまSNSで知人が「吉岡先生の講演がすごい感動した!」みたいな熱い投稿をしており、私も実際に動画を見て「この人の話は経営者に刺さるかも」と思ってオファーしたのがきっかけです。
— 吉岡先生の講演のどのあたりが刺さると思ったのでしょうか?
小林やりたいこと、目標が明確なところですね。なので最初は社会貢献がしたいという部分ではなく、経営者に刺さる「知らない世界」の人という目線でオファーをしました。

13年前、小林さんが初めて吉岡と会ったとき(2012年2月)
— そこからジャパンハートとの繋がりが生まれて、視察ツアーの参加に至ったということですね。
小林いえ、実はそこから紆余曲折ありまして(笑)
当初から現地に行きたいとは思いつつ、仕事を優先してなかなか実現することができず。
そんな中でIVSを退職して、2016年からはICCとして吉岡先生にイベントへのオファーをしました。しかし、このイベントでは異分野である吉岡先生に興味を集められず、結果的に参加者が10〜20人程度にとどまり、自分の力不足を感じました。
なので実力をつけてから再度オファーをしようと思い、その後の約7年間は疎遠となります。
そして2023年8月にシンクロの西井さんから、急に誘われたこの視察ツアー先で、久々に再会したという流れですね。
— まさに巡り巡って、今、現地に行くタイミングが訪れたという感じですね。
小林本当にそうなんですよ。そこから去年4月のチャリティーイベントでは300人くらい集めることができたし、しっかりリベンジも果たせました。
あと、そもそも西井さんがジャパンハートを知ったきっかけとなるファクトリエの山田くんは、IVSの吉岡先生の講演がきっかけだという話なので、過去のいろんな出来事が今繋がったという感覚ですね。
「チャリティーイベント」という自分らしい支援
— ここからは視察ツアーに参加して感じたことを聞いていきたいのですが、吉岡先生と出会ってから約8年の月日を経て、現地に足を踏み入れた感想はいかがでしたか。
小林まず何よりも驚いたのはジャパンハートの活動の成長ですね。
当時、吉岡先生の講演で見た現地の様子は、文字通り「何もない広場」でした。
それが去年現地に行ってみたら「STEM教育までやっているのか」とか「カンボジアに立派な新病院ができるの?いつの間にそんなことに…」という驚きばかりで(笑)
今やDream Train(ジャパンハートがミャンマーで運営する養育施設)で学んだ子が日本に来て、みんなの前でスピーチしていたりするんですよ。
Dream Trainなんて、10年前はまだ掘っ立て小屋だったのに(笑)
前から支援をしてきた活動が、こんなに着実に成長している様子を見られるのはやっぱり嬉しいし、良い刺激になります。

現在、約100人の子どもが共同生活を送っているDream Train
あと8年ぶりに吉岡先生とお会いして実感したのは、私が吉岡秀人にものすごい影響を受けていたということです。特に生き方や考え方には大きく影響を受けていて、チャリティーイベントの開催もそんな「吉岡秀人を現役のうちに知ってくれ!」という想いがあったからこその開催でしたね。
— なるほど。少なくとも小林正忠さんや桜井さんには十分に想いが伝わっていることがわかりますよね。お二人ともインタビュー内で「ジャパンハートを通して『今自分に何ができるのか』をずっと考えている」ともおっしゃっていました。

ICCが主催したチャリティーイベント
小林それは私も同じで、吉岡先生と出会ってから「自分に何ができるのか」を考え、試行しつづけています。
その一つがチャリティーイベントで、イベントにかかる費用は私たちが負担していましたが、少し使いすぎて1200万円ぐらいかかりました(笑)
でも結果的に、このイベントで約5000万円の寄付を集めることができたので、普通に1000万円の寄付をするよりも大きな支援となりました。それはつまり私自身が持っている「イベント企画力」で支援の幅が広がるということです。
もっというとこの講演を聞いた経営者がまた新たにジャパンハートの講演を企画したりするなど、さらに波及していく可能性もあって、その方が価値があると思いました。
なので支援の形も自分らしい方法でおこなっていけば良いと考えています。
視野を広げる体験がこのツアーにはある
— ところで、小林さんはこのツアーにはこれまで二度参加しており、その際、一度目は2人の娘さんと、二度目はICCの若手メンバーをなんと10人以上連れて参加したということですが、ここにはどういった想いがあるのでしょうか。
小林それはこのツアーで得た体験は自分の生き方や価値観に影響を与える体験になると思っているからですね。もっと言うと知らない世界に飛び込んだ時の衝撃は、当人の視野を広げることになると信じています。
だからこそ若いうちに現地に行くべきだと思いますが、一方で若い時はお金がなかったり、そもそも情報が届かなかったりで、そういった経験に辿り着くことは難しいんですよね。
だから、そこは私がツアー費用と参加費(寄付金)の1名あたり合計30万円くらいを負担した上で声をかけてあげれば良いんじゃないかなと思いました。
とはいえ参加者が5人くらいだと見積もっていたところ、結果的に数回に分かれて20人以上が参加したので、だいぶ予算オーバーしましたが(笑)
— 20人以上とはすごいですね(笑)
小林びっくりしました(笑)
ただ一方で少人数で行ってもあまり意味がなくて、ある程度まとまったチームでお互いの価値観を共有することに大きな価値があると思っています。
例えば同じ本を読んでも人それぞれで感想が違うからこそそれぞれの考えを話し合う行為が生まれるわけじゃないですか。
僕はよく企画を考える時に「コストは足し算、価値は掛け算で増える」と言っているんですけども、1人で行くより5人とか10人とかで共有した方が価値が高いんですよね。
なのでたとえ多少お金がかかったとしても、それはいずれどこかで社会的に還元されるものになるわけで、この体験が若者の人生にとって意味のあるものになればと思っていますね。

現地視察ツアーにはICCの若手メンバーも参加
— 実際、ツアー中の過密なスケジュールの合間にも自主的に意見し合う姿が見受けられたそうですね。
みんなで体験を共有することで、より理解をすごく深めようとしていてまさに掛け算の部分ですね。
小林そうですね。そしてさらにその先、視察ツアーだけで完結しない次に繋がる体験も掛け算の部分ですよね。
「視察ツアーで得た体験をどう次に活かすか」という部分もうまく考えていきたくて。
例えば今年9月に開催するICCサミットで、吉岡先生とかの講演とかICCのイベントに絡めて何か今回の体験をアウトプットできたら面白いんじゃないかなとも思ったりしています。
自分一人で大きなことをするのは難しいけど、様々な人の力や体験をつなぎ合わせれば、みんなもっと面白いことができる。
だから私はそれらを提供、組み合わせてどんどん増幅してあげられたらなと思います。
— この視察ツアーは視野を広げる体験であると同時に、さらにその先まで広げていくためのステップでもあるということですね。
小林そうですね。良いキャリアプログラムというか、特に20代半ばである程度自分で仕事もしつつ、なんとなく凝り固まってモヤモヤしてるみたいな時に行くと、かなり良い体験になると思いますね。
あとは、単純に歴史や経済を肌で感じる良い体験です。
特にアジアの新興国、発展している国とそうでない国も含めて、どんな違いがあるのかを含めて学ぶ機会にもなります。
やはり可能な限り若いうちに体験して欲しいので、ぜひ経営者の方は1人か2人ぐらい若手を一緒に連れて参加することを強くおすすめします。
お金以上のものは必ず戻ってくるし、若手の教育カリキュラムとしてもうってつけですね。
— ジャパンハートの活動と同時に、国や地域別の経済発展の違いも肌で感じることができるということですね。
小林そうですね。あとはやはり支援の形が寄付だけではないということです。
それこそ視察ツアーに若手を連れて参加するというのも支援の一つですし、私のように仕事を通して支援をする形もあるわけなので、自分の価値を最大化できる支援方法を見つけられたらと思います。
(取材日:2024年11月 writer:越野和馬)
プロフィール
小林 雅 (こばやし まさし)
ICCパートナーズ株式会社 代表取締役
東京大学工学部卒業後、1998年に経営コンサルティング会社「アーサー・D・リトル(ジャパン)」に入社。 主に日本の大手製造業の新規事業立案のプロジェクトを担当。2001年に独立系最大級のベンチャーキャピタル「エイパックス・グロービス・パートナーズ(現在のグロービス・キャピタル・パートナーズ)に入社。 2004年同社のパートナーに29歳で就任(最年少)。
2007年に独立し、ベンチャーキャピタルを共同創業し、累計150億円以上のベンチャーキャピタルファンドを立ち上げた。2001年から一貫して14年間インターネット業界のベンチャー投資業務に従事し、グリー・freee・ソラコムなど多くの注目投資案件を手がけた。
また、2004年からはインターネット業界の経営者・幹部が集まるカンファレンスNew Industry Ledaers Summit(NILS)の立ち上げに参画。その後10年以上カンファレンスの企画・運営を行い、インターネット産業の発展に貢献した。
2015年10月に独立し、2016年4月にICCパートナーズ株式会社設立とともに代表取締役就任。産業を共に創るトップリーダーの集まるコミュニティ「Industry Co-Creation(ICC)」の企画・運営を通じてオープン・イノベーションの実現に取り組む。