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「教育の原点を見つめ直す旅 -現場を通して学んだ『覚悟』の意味-」 – ジャパンハート現地視察ツアーレポート 
愛知県教育委員会 岩橋 雅高 様

up 2025.03.17

ジャパンハートの活動を知ってもらうために開催された「ジャパンハート現地視察ツアー」。
カンボジアとミャンマーの各施設を周り、実際の現場の様子や子どもたちとの交流を通じて、参加者は何を”持って帰ってきた”のでしょうか。
これまでは、主にビジネスパーソンに対してインタビューをおこなってきたこのシリーズですが、今回は教育現場で30年のキャリアを持ち、ミャンマーでの教育支援活動にも長年携わってきた岩橋氏です。視察ツアーを通じて得た新たな気づきと学びを「教育」の視点から語っていただきました。

ジャパンハート現地視察ツアーレポート 愛知県教育委員会 岩橋 雅高 様

阿久比町に訪問したDream Trainの子どもたち

たまたま手に取った冊子から「世界の一員」へ

— まず、ジャパンハートとの出会いと支援に至った経緯を教えてください。

岩橋ジャパンハートを知ったのは2007年、ミャンマーでのことです。
当時、在外教育施設派遣教員としてヤンゴン日本人学校に在籍しており、そこでジャパンハートの方々から活動について説明を受けたことが出会いですね。

— 元々ヤンゴンの学校で教えていたのですね。

岩橋そうなんですよ。その前に学生時代の話になるのですが、バイト先で手に取った冊子にフィリピンでのワークキャンプの記事が掲載されていて、なんとなく面白そうだから行ってみることにしました。
ただ、当時のフィリピンはまだまだ怖いイメージもあってか、親の猛反対もありましたが、いざ現地に行ってみると想像していた怖い世界とはまるで違う、陽気で愉快、そして本当に優しい人ばかりで。
学生時代は勉強もそれなりに頑張ってきたので、ある程度知ってるつもりでいたのに「あれ、こんなに知らないことだらけなの?」とショックを受け「日本で勉強してるだけじゃダメだな」と思うようになりました。
その後、教員になってから在外教育施設派遣を希望し、その赴任先がたまたまヤンゴンの学校だったというのが経緯です。

— そしてその後、冒頭の出会いをきっかけに支援が始まっていくということですね。

岩橋いえ、それが正直に言うと、最初はジャパンハートに対して半信半疑でした。
「無償の医療提供なんて可能なの?」と思っていたし、「ジャパンハートなんて大きな名前をつけて大丈夫かな?」と心配していたほどです(笑)
でも帰国後、愛知県の中学校にいた2010年に、たまたま吉岡先生がその学校へ講演に来てくれたんですよ。
その時に「あれ?この人知ってるぞ」と思って、話を聞いていたら「ヤンゴンで説明してくれた団体の人か!」と記憶と繋がっていって(笑)
さらにすごく共感できるような内容だったので、「何かやれることはないか」と調べたところ、ミャンマーの養育施設で暮らす子どもの里親になる仕組みがあることを知り、里親としての支援を始めました。

— 偶然の出会いが重なって支援に至ったわけですね。(ジャパンハートの里親支援制度)

岩橋吉岡先生の講演を聴いて私が感じたのは、「国とか人種とか関係なく、常に世界の一員として考えて動く」ということ。
なので私もその頃から「子ども達が世界の一員として育つにはどうしたらいいのか」という考え方を持つようになりました。

ジャパンハート現地視察ツアーレポート 愛知県教育委員会 岩橋 雅高 様

第12回スタディツアー 地元中学生有志が集めてくれた募金をお届け

スタディーツアーから視察ツアーへ

— ここからは今回の視察ツアーに参加するまでの流れについて伺っていきたいのですが、現地に行こうと思ったのは、里親支援と関係しているのでしょうか?

岩橋もちろんそれもありますが、そもそも2008年に日本に戻ってきてから、かつての教え子や同僚をミャンマーに連れていく「ちいさなふれあい感動体験ミャンマースタディーツアー」を自主開催し、のべ150人くらいの参加がありました。
その一環として吉岡先生と出会った2010年からは、このツアーにDream Trainへの訪問も入れて、ジャパンハートに協力したり、逆に協力してもらったりという関係性になっていくのですが…。

ジャパンハート現地視察ツアーレポート 愛知県教育委員会 岩橋 雅高 様

ワチェにて第9回ツアーメンバーと吉岡先生

— 支援を始める前から定期的にミャンマーへのツアーを開催されていたと。それはやはり学生時代にフィリピンで実感した「日本で勉強してるだけじゃダメだ」という想いからなのでしょうか?

岩橋そうですね。実際に連れていった教員たちも、現地の活動や子どもたちとのコミュニケーションに対してすごく前のめりになってくれて、例えば「日本らしい授業」というテーマを掲げて、日本から習字道具を持参し、書写の授業をおこないました。
大変な部分もありますが、教員側の自主性を育むためにも良い経験になるはずで、それこそ私と同じように、彼らにも「世界の一員」としての自覚を持つきっかけになればと思って開催していました。

ジャパンハート現地視察ツアーレポート 愛知県教育委員会 岩橋 雅高 様

第7回ツアーでのDream Trainの子どもたちの書写作品

— 確かに普段の授業とは異なり、言語や文化が違うだけでも「伝える」ための工夫が必要になりますよね。そのスタディーツアーはいつ頃まで開催していたのでしょうか?

岩橋2020年までは毎年開催していましたが、翌年の軍事クーデターが起こってから、現地に行けなくなり…。
混乱下で現地の友人が大きなトラブルに巻き込まれたり、国全体で苦しい状況に陥っているという話を聞いて、自分の無力さに心を痛めていました。
そんな時に、2024年のジャパンハート設立20周年イベントで視察ツアーのことを知り、すぐに参加を決めましたね。

— 決断に至った決め手は何だったのでしょうか?

岩橋まず何より、今のミャンマーを現地で感じて「今自分ができること」を考えたいという想い。あとはまだカンボジアに行ったことがなく、新病院のプロジェクトを見て寄付もしたかったので、その二つの想いから参加しました。

「覚悟」を体感する

— 実際に4年ぶりの現地訪問となったわけですが、どのような違いを感じましたか?

岩橋ヤンゴンの街は以前のような活気が失われていた部分も見受けられた一方で、Dream Trainはさらに進化していたんですよね。
一般教養から外国語の授業、さらにプログラミングなどの専門分野まで、子どもたちが学びたいことを幅広く学べる体制になっていることに驚きました。
だからこそ「学びたい」という意欲が途切れることなく続いて、主体的に学んだことがそれぞれの「夢」につながっていく、まさに理想的な学校教育のあり方だなと思っています。

— 「学びたい」という意欲を維持することって決して簡単なことではないですよね。

岩橋そうですね。そもそも子どもたちは学ぶことに対してすごく一生懸命なんですよね。
今回行った時も、一人の子がバスケットボールをしていたので、元バスケ部顧問だった身として、ついつい昔の血が騒いで熱心に教えてしまって(笑)
そうしたらその子も一生懸命打ち込むので、みるみるうちに上手になっていくんですよ。
そして何か一つ出来るようになると、その度にすごく嬉しそうに「次は?次は??」と嬉しそうに求めてくれて。
そのひたむきさや純粋さには胸を打たれるし「教える良さって、こうしてできるようになったことを、一緒に喜べることだよな」と改めて感じました。

ジャパンハート現地視察ツアーレポート 
愛知県教育委員会 岩橋 雅高 様

— どんな環境であっても教育の力で「子どもたちに『夢』を与えることができる」。
この視察ツアーには、そんな教育の力を体感できる機会があるということですね。

岩橋そうですね。以前吉岡先生に「日本の学校の先生についてどう思いますか?」と聞いたことがあるのですが、その時に「私たちのような医師は命を預かっている『覚悟』を持って、仕事に臨んでいる。学校の教師も子どもの人生の一部を預かるという意味では一緒だと思うが、その『覚悟』を持っているだろうか?」と言われたことがずっと心に残っていました。
Dream Trainはもちろんのこと、今回初めて行ったカンボジアの病院で見学した手術現場など、覚悟がひしひしと伝わってくる場所であり、同時にその覚悟があるからこそ、夢を与えられる場所になっているのだと実感しました。

— 手術現場もそうですが、そういった「覚悟」に触れる機会って日常生活ではまず訪れないですよね。

岩橋私もそう思います。だからこそ私を含めたツアーに参加した人は、そこに刺激を受けて、この体験をどうやって自分に昇華すべきか考え始めるんですよね。
実際にツアーのプログラムが終了した後も、参加者同士で自主的に意見交換がなされていて素晴らしいなと思いました。

知多半島から世界の一員へ

— それでは最後にこの視察ツアーを経て、今後岩橋さんがジャパンハートとどう関わっていくのか、その展望について教えてください。

岩橋いつも思うのですが、私がやりたいことの先に、たまたまジャパンハートの活動があるんですよね。だから私自身は「支援している」つもりはなくて、共創できればと思っています。
自分の活動がジャパンハートとどう共創していけるのかを考えて実行していきたいですね。
ということで、私が実行したことに対してジャパンハートさんがどう思うかはわかりませんが、ジャパンハートの名前を私のいる愛知県に、まずは知多半島から広めることで許して下さい(笑)

— スローガンは「知多半島から世界の一員へ」ですね!

岩橋それいいですね!
あとは里親支援をしていた子にも会いたいですね。
以前、ある兄弟の里親をしていたのですが、Dream Trainに行った際に「将来の夢は?」と聞いてみたんです。
すると弟の方が「パイロットになりたい」と言うので、理由を聞いてみたところ「だって日本のお父さんとお母さんに会いに行けるでしょ?」って。
辛いことも多いはずなのに、どうしてこんなに強くて優しい考え方ができるのだろうと感動し、里親をやっていて良かったと思った瞬間でしたね。
そんな彼らの成長を楽しむと同時に、私自身も背中を押してもらえるので、里親支援もこれからも続けていきたいと思っています。

ジャパンハート現地視察ツアーレポート 愛知県教育委員会 岩橋 雅高 様

(取材日:2025年2月 writer:越野和馬)

プロフィール

岩橋 雅高(いわはし まさたか)
愛知教育委員会主席指導主事

愛知教育大学卒業後、1994年小学校教諭となり、その後中学校国語教師として勤務。2003年から2年間文部科学省指定 学力向上フロンティアスクール事業フロンティアティーチャーとして基礎学力向上について研究。2005年から3年間、在外教育施設派遣教員としてミャンマー連邦日本国大使館付属ヤンゴン日本人学校に赴任。休日には現地でミャンマーの若者達に日本語を教える傍ら『ミャンマー人のための岩橋式日本語2級講座』出版。
帰国後、2008年2009年愛知県総合教育センター研究協力員を務め「規範意識を高める学校・家庭・地域の相互連携の在り方に関する研究」を進める。2010年愛知県優秀教員表彰。愛知県教育委員会指導主事、中学校教頭、小学校校長として勤務後、現職に。
現在も「ちいさなふれあい感動体験ミャンマースタディツアー」を主催するなど日緬友好活動を続けている。

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