ラオスの首都ビエンチャンで推進中の小児固形がん周手術期技術移転プロジェクト(以下、小児がんプロジェクト)。プロジェクトを担当する根釜看護師が、現地パートナーである国立子ども病院(以下、子ども病院)に滞在し実感したラオス医療の現状。看護師の目を通した「リアル」をインタビュー形式でお伝えするシリーズの後編です。
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【ラオス】小児がん治療の現場から-プロジェクトにかける看護師の想い(前編)
■ 根釜さんは今年の2月から3月にかけて、約1ヵ月に渡り子ども病院に滞在し、病院が普段行っている医療活動を見学しながら手術活動の準備を進められてきました。滞在期間が終了した現在、プロジェクトのパートナーとして子ども病院にどのような印象を持っていますか?
ラオスで唯一の国立小児専門病院で働いているというスタッフの意識の高さ、責任感を強く感じ、パートナーとして非常に頼りになる存在だと思っています。私の滞在期間を通じてジャパンハートやプロジェクトの認知度が高まり、私自身も子ども病院にとってのパートナーであるという自覚は強くなりましたし、彼らと一緒にやっていきたいという想いが大きくなりました。
今後は治療方針や知識・技術に関して、より活発にディスカッションできるような関係性を構築していきたいです。
■ その子ども病院をパートナーとして、根釜さんが先頭に立ち推進している小児がんプロジェクトですが、ジャパンハートがラオスでこのプロジェクトを行う意義は何でしょうか。
助かる命を、助かるはずだった命にしない。正にこのことばに尽きると思います。
小児の固形がんは、早期に発見して化学療法と手術をすれば、助かることも多い病気です。このプロジェクトの対象疾患のひとつが肝芽腫ですが、小児の肝臓の手術実績がないラオスにおいて国内で手術が完結できるようになれば、今はまだ助けられていない命が助かるようになります。
ラオスでは病気になっても早期に病院を受診することが難しく、かなり症状が進んでから病院に来た肝芽腫の患者さんが、治療が間に合わず目の前で亡くなってしまったこともあります。「もっと早く、診断・治療ができていたら、この子の将来はどうなっていたのだろう。たくさんの人と出会い、夢を叶える未来があったのではないか。」そのように考えずにはいられません。
このプロジェクトを通じて技術移転が進み、ラオス国内でもビエンチャンから地方へ技術と知識が伝わって全国で手術ができるようになれば、救える命が更に増え、ラオスの子どもの未来が変わるのではないかと、肌で感じました。
■「ラオス初」にも挑戦するこのプロジェクトですが、どのような困難・課題がありますか?
一番の課題は、ラオスの医療事情として患者さんが早期に病院に来るのが難しいことです。地方の病院では診断すら難しかったり、病院に来たときには症状が進んでいて治療が間に合わないということもよくあります。既にSNSを通じた情報発信は行っていますが、今後もジャパンハートとしてできることを考えていきたいです。
また、日本とラオスの病院の慣習やシステムの違いにも難しさがあります。看護記録や治療の経過の残し方が異なるため、日本人とラオス人の医療者同士が患者さんの情報共有をする際には注意が必要だと感じています。
■ 最後にこのプロジェクトにかける根釜さんの想いを聞かせてください。
このプロジェクトを通じた技術移転により、ラオス国内で小児固形がんの治療が完結できるようになり、ゆくゆくはそれがラオス全国の病院に広がっていくことで、今までは助かる「はず」だった子どもの命が実際に助かる命になります。その子どもたちが大人になって夢を叶え、さらにその子どもたち自身の子どもが生まれる―それは、生まれなかったかもしれない命に繋がっていくということ。ラオスの子どもたちの未来が繋がっていく、そんなプロジェクトだと思っています。
私自身も、一度きりの人生の中でそのようなプロジェクトに携われることを嬉しく思います。ラオスの皆さん、応援してくださる皆さんと一緒に、全力で取り組んでいきたいです。
インタビュアー・文章:ラオスオフィス 松原 遼子
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ラオス 国立子ども病院での小児固形がん周手術期技術移転プロジェクト