活動レポート

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【ラオス】プロジェクトの折り返し地点―互いの尊敬に成り立つ技術移転

up 2025.02.05

サバイディー!(ラオス語で「こんにちは!」)ラオスオフィスの松原です。

突然ですが、皆さんは東南アジアの国の気候について、どのようなイメージを持っていますか?ほとんどの方が常夏で暑い地域だと思っているのではないでしょうか。

私がラオスに来て驚いたことのひとつが、冬はとても寒いということです。内陸国で山岳地帯が多いラオスでは、1年で最も気温が下がる1月は首都ビエンチャンでも最低気温が10℃~15℃程度、私たちの活動地である北部ウドムサイ県では7℃になることも!冷房はあっても暖房はない施設がほとんどのため、暖かい格好をして道端の焚火に一緒にあたらせてもらいました。

【ラオス】プロジェクトの折り返し地点―互いの尊敬に成り立つ技術移転

【術後診察に来てくれた11月の患者さんも防寒対策ばっちり 】

患者さんの安全と生活を第一に、時には難しい決断も-

さて、そんな1月の真冬のウドムサイ県で、甲状腺疾患治療事業並びに技術移転プロジェクト(以下、甲状腺プロジェクト)第2フェーズの2回目の手術活動が実施されました。3年間で全12回を予定している手術活動も、ちょうど半分を終えたことになります。今回も一般社団法人日本内分泌外科学会の協力のもと、2名の専門医と1名の見学ボランティアの先生にお越しいただきました。

手術の前日は患者さんの術前診察を行います。11名の患者さんの手術を予定していましたが、そのうち1名が術前検査の結果腎臓の機能が大きく低下していることがわかり、手術をキャンセルせざるを得ませんでした。腎臓の機能が下がっていると、手術中に使用する薬や麻酔薬を分解したり排出したりする能力が弱くなる場合があり、薬剤の副作用や合併症のリスクが高まります。日本であれば一時的でも血液透析を行うことも可能ですが、ラオスではそれも簡単ではありません。その患者さんは甲状腺に巨大な腫瘍があり、手術を心待ちにしていたので、私たちも手術ができないことを伝えるのはとても心苦しい思いでしたが、患者さんの安全を第一に考えるとやむを得ない判断でした。

ラオスでは定期的に健康診断を受ける習慣はなく、この患者さんも術前検査を行って初めて腎臓の機能低下が判明しました。他にもB型肝炎などの感染症が判明するケースもあります。病気の予防や早期発見のために健康状態をチェックするという考え方はまだまだ一般的ではないということを、改めて実感しました。

【ラオス】プロジェクトの折り返し地点―互いの尊敬に成り立つ技術移転

【術式についてディスカッション中の友田先生 】

【ラオス】プロジェクトの折り返し地点―互いの尊敬に成り立つ技術移転

【エコー診断を行う榎本先生(左)と平山先生(右)】

ラオス人医師が大活躍!お互いへの尊敬の念に支えられた技術移転

今回はウドムサイ県病院の先生方の強い希望もあり、なんと10件全症例を現地医師が執刀しました。また、第一助手もほとんど全て現地医師が担い、指導にあたった日本人の先生からも、かなりの部分を安心して任せられたとのコメントをいただいています。現地医師にとっても大きく自信を深めることになったようで、ウドムサイ県病院へ活動を移行していく上で、ステージがひとつ上がった実感があり大変嬉しく思います。

【ラオス】プロジェクトの折り返し地点―互いの尊敬に成り立つ技術移転

【手術室の友田先生(中)とウドムサイ県病院のオン先生(左)、コンペット先生(右) 】

【ラオス】プロジェクトの折り返し地点―互いの尊敬に成り立つ技術移転

【榎本先生(右)、オン先生(左から2番目)、コンペット先生(中) 】

【ラオス】プロジェクトの折り返し地点―互いの尊敬に成り立つ技術移転

【朝の回診の様子】

ウドムサイ県病院への移行に関しては、医療物品についても現地で無理なく調達できるものを使用する必要があります。現在使用している物品の大半はラオス国内で調達可能ですが、まだ日本から持ち込んだものを使用しているケースもあり、代替品への切り替えを考えなければいけません。そのうちのひとつがドレーン(血液や浸出液を体外へ排出するために使用する管)です。今回の手術活動では、日本と現地それぞれの先生方と相談し、普段ウドムサイ県病院が行っているドレナージの方法も試すことになっていました。

日本で一般的に使用されているドレーンはラオスでは入手できません。ウドムサイ県病院では専用のドレーンではなく、点滴の管や医療用手袋を使用していると聞いていましたが、実際にやり方を見せてもらい、限られた物資を最大限に活用する彼らの知恵と工夫に感動を覚えました。現地医師によると、その方法は先輩医師から脈々と引き継がれてきたとのことです。ウドムサイ県病院の医療者が自ら地域の人々の治療を行うようになる上で、このような彼ら自身のやり方をもっと教えてもらい、共に最良の手段を考えていきたいと改めて感じたエピソードでした。

手術の合間に、ウドムサイ県病院の麻酔科の先生がジャパンハートの関山看護師へ「お互いに尊敬し合うことを大切にして今後も活動していきましょう」と語ったそうです。国際協力の現場で忘れてはならないことのひとつですが、互いの経験を尊重し合い、より良い結果を共に目指すことの重要性を、ドレーンのエピソードからも学ばせてもらいました。

最後に、活動に参加いただいた先生方、そして日ごろからご支援をいただいている皆さまに厚く御礼を申し上げます。
今後もラオス事業への応援を宜しくお願いします!

【ラオス】プロジェクトの折り返し地点―互いの尊敬に成り立つ技術移転

ラオスオフィス 松原 遼子

参加いただいた先生からのメッセージ

【ラオス】プロジェクトの折り返し地点―互いの尊敬に成り立つ技術移転

◇◆ 伊藤病院 外科医長 友田 智哲 先生 ◆◇
2025年1月に、ウドムサイ県病院での甲状腺手術支援に参加させていただきました。前回参加させていただいた2023年11月に比べ、ラオスの外科医や看護師たちが甲状腺手術に関する知識を深め、積極的に行動する姿に感銘を受けました。執刀をさせて欲しいとの意欲的な申し出もあり、このミッションで初めて全症例をラオス人医師に執刀していただきました。さらに、ほとんどの症例で第一助手もラオス人医師にお任せするかたちで、手術を完遂することができました。術前・術後の病棟管理やドレーン抜去を自らおこなってくれた看護師さんも「英語も勉強しています」と言って、業務やカルテ記載に使用する用語をラオス語と英語でびっしり書いたノートを見せてくれ、「もっといろいろな事が知りたい」と言ってくれました。

通常使用しているペンローズドレーンがラオスでは手に入らないとのことで、代わりになるものを探していたところ、ラオスで昔からおこなわれている”手袋の端を切って丸めてドレーンの代わりにする方法”の提案があり、実際の症例でも使用しました。自分たちの方法で自国の人々を救う為に、いろいろ考え切磋琢磨する彼らの姿勢に触れ、日本での診療で忘れていた何かを思い出したような気がしました。

機会があればまた訪問し、ラオスの医師や看護師さん達と一緒になって、患者さんの為にできることを相談し、協力していきたいと思っております。最後になりますが、今回の活動時を含めいろいろ尽力して頂いているジャパンハートのスタッフのさらなるご発展をお祈り申し上げます。

【ラオス】プロジェクトの折り返し地点―互いの尊敬に成り立つ技術移転

◇◆ 天王寺甲状腺えのもとクリニック 院長 榎本 圭佑 先生 ◆◇
2025年1月の診療では10例の甲状腺手術、多数の甲状腺超音波の検査・指導に携わる事ができました。本プロジェクトの趣旨に沿って、手術を担当された2名のラオス人外科医に甲状腺手術のピットフォールをお伝えする事が出来たかと思います。加えて、2名のラオス人内科医師には、超音波検査の基本操作・見るべきポイントをお伝えするよう心がけました。特に甲状腺重量の算出法、手術術式(全摘/亜全摘/葉切除)を決定する上で必要な情報記載など、内科・外科の連携を意識してお伝えしました。

日本の環境とは大きく異なり、言語の壁、限られた医療資源、ヨウ素欠乏地域からくる対象甲状腺疾患の違いなどあり、不十分な点もあったかとは思います。しかし、本プロジェクトの一連の診療指導が、将来のラオス人民民主共和国・甲状腺診療の礎となる事を切に願っております。

 最後になりましたが、私個人としても改めて医療・公衆衛生について考えさせられる貴重な経験となりました。厳しい環境の中、本プロジェクトを企画・運営されているジャパンハートスタッフの皆様、パートナーシップ・日本内分泌外科学会の活動に、厚く敬意と感謝を申し上げております。

【ラオス】プロジェクトの折り返し地点―互いの尊敬に成り立つ技術移転

◇◆ 紀南病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 平山 俊 先生 ◆◇
今回私は見学ボランティアとしてこのミッションに参加しました。ラオスの医療状況を目の当たりにし、いかに普段我々が恵まれた環境にいるのかということを再認識しました。それと同時に、ラオスでの患者と家族、医療スタッフが一体となって治療に挑むスタイルに感銘を受け、自分の医師としてのありかたを見直す良い経験となりました。

今回は医師として直接手術には参加できませんでしたが、また機会がありましたら何らかの形で活動・支援を続けたいと思います。このような貴重な体験をさせていただきありがとうございました。

▼プロジェクトの詳細はこちらから
ラオス | 北部・ウドムサイ県での甲状腺疾患治療事業並びに技術移転活動

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