サバイディー!(ラオス語で「こんにちは」)ラオスオフィスの松原です。
雨季が終わり乾季に入った11月、首都ビエンチャンのシンボルである仏教寺院タートルアンとその周辺で、ラオスの仏教徒にとって最も重要な行事と言われる「タートルアン祭り」が開催されました。
普段は静かでのんびりとした雰囲気が流れていますが、お祭りの期間はラオス全国から集まった僧侶による早朝の読経、歩行者天国とたくさんの屋台、そしてこの国のどこにこれほどたくさんいたのかと思うほどの人、人、人で、大賑わい。
さすがラオス最大級のお祭りということを実感しました。
11月の満月に合わせ開催されるタートルアン祭り
色とりどり伝統衣装を売る屋台
ラオス人医療者とチームで取り組む手術活動
お祭りの興奮冷めやらぬ11月末、一般社団法人日本内分泌外科学会理事長の原尚人先生とジャパンハート最高顧問の吉岡秀人により、ラオス北部ウドムサイ県での手術活動が実施されました。
甲状腺疾患治療事業並びに技術移転プロジェクト(以下、甲状腺プロジェクト)第2フェーズの2年目初回の手術活動です。
原先生は昨年11月に続き2回目のご参加、吉岡は2022年6月以来約2年半ぶりのラオスでの活動となりました。
カンボジアのジャパンハートこども医療センター(以下、JHCMC)で働く外科医のラタナ先生も吉岡のアシスタントとして参加しました。
甲状腺プロジェクトにJHCMCから医師が参加するのは初めてのことです。
今回はウドムサイ県病院の事情もあり参加できる外科医が少なく、最年少のコンペット先生が活動期間を通じてほぼ全ての手術に参加しました。
合間にウドムサイ県病院の緊急手術にも入る忙しさでしたが、ジャパンハートの全11件の手術の内4件はコンペット先生が執刀しました。
ラタナ先生とも英語で活発にコミュニケーションを取り、ラオスとカンボジアの若い医師がお互いの熱意に刺激を受けている様子が印象的でした。
本プロジェクトの大きな目的の1つが「技術移転」です。コンペット先生はもちろんラタナ先生も、新たな技術や知識を得ようと非常に積極的に取り組み、休憩中も原先生に質問する光景が見られました。
(右)吉岡秀人医師 (中)JHCMCラタナ先生 (左)ウドムサイ県病院 コンペット先生
(右)原尚人先生
手術室看護師は日本人看護師のサポートのもと、タイムアウトやガーゼカウントを実施しました。
前回の手術活動から半年経っていることもあり、始めは自信がなさそうでしたが、日本人看護師からの「合ってるよ!」「スック ニョー!(すごい!)」との声掛けに段々と表情が明るくなっていきました。
手術室の緊張感の中でもできることが増えていく喜びを目の当たりにし、こちらも嬉しくなります。
手術器具の準備をする手術室看護師
ガーゼカウントの様子
また、今回は入院患者さんの夜間のケアを4名のラオス人看護師が毎日1名ずつ交代で行いました。
1年目の後半から徐々に1名での夜間対応トレーニングを重ねており、今回も夜勤前は日本人看護師が一緒にケアにあたるなどのサポートは行いましたが、4名全員が安全に単独で夜間のケアを終えることができたのは彼女たち自身の意欲の高さと責任感の強さがあってこそです。
また、ひと足先に1人夜勤を実践し、他の3名の指導にあたってくれた病棟リーダーのコリーさんにも改めて敬意を表します。
病棟リーダーのコリーさん(右)はラオス人看護師の指導役
回診時に医師の指示を受けて処置を行う様子
恒例の体操は病棟看護師がお手本を見せる
患者さんの今後の暮らしを想って
ラオスでは入院中の患者さんの食事や排せつのケアは家族が泊まり込みで行うのが一般的です。
日中は病院の敷地内にある炊事場で食事を作り、他の患者さん家族と一緒におしゃべり。夜間は病棟にござを敷き、全員で眠ります。
手術前は一様に緊張した様子の患者さんたちですが、家族が付きっきりでケアをし、他の患者さんの家族と和やかな時間を過ごすことで、手術後はすぐに笑顔が見られるようになります。
甲状腺の腫瘍が原因で大きな違和感や息苦しさを抱えながら生活していた患者さんたちは切除した腫瘍を見たいという方が多く、手術翌日の回診時に記録写真を見せると、ご家族とともにその大きさに驚き、スマホで写真まで撮影していました。
手術を行った医師やジャパンハートのスタッフに何度もお礼を言う様子を見て、患者さんたちが今後より暮らしやすくなり、生活が豊かになることを願うばかりです。
手術前の集合写真
夜間の病棟。どこまでがひと家族かわかりません。
患者さんのお孫さん。おばあちゃん子で常に患者さんと一緒にいました。
現在の甲状腺プロジェクトはあと2年弱で終了し、以降はウドムサイ県病院の医療者たちが自ら地域の患者さんを治療していくことになります。
そのために必要なことは何か、いつ・どのように移行していくのが最善か、私たちも試行錯誤を繰り返しています。
それでも、コンペット先生や手術室看護師、病棟看護師のようなラオス人の若い医療者の熱意に触れる度に彼らがいればきっと大丈夫と明るい気持ちになるのです。
ラオスオフィス 松原 遼子
参加いただいた先生からのメッセージ
今回手術活動に参加いただいた
筑波大学 医学医療系 乳腺甲状腺内分泌外科 教授
一般社団法人 日本内分泌外科学会 理事長 原 尚人 先生
誠にありがとうございました。
そして、日ごろからご支援をいただいている皆さまに厚く御礼を申し上げます。
今後もラオス事業への応援を宜しくお願いします!
(以下、原 尚人先生からのメッセージ)
今回創設者でいらっしゃる吉岡秀人先生とご一緒でき、他国での活動の状況などもお聞きできたことは刺激的でした。
ウドムサイ病院での活動は2年目になりましたが、まだまだ課題はたくさんあることも痛感いたしました。
また、最も主の目的である手術技術移転ですが、残念なことに対象となる3名の外科医のうち種々の理由で2名の先生が参加不可となってしまいました。
ただし、不幸中の幸いと申しますか、唯一参加してくださったウドムサイ病院外科の先生は最も若手でやる気も満々、ほぼ全例の手術に参加してくださりかなり濃密な経験ができたのではないかと思っております。
そして今回特別参加のカンボジア人若手外科医も甲状腺手術に深く興味を持ってくださり、質問も熱心でこちらも教えがいがありました。
ちょうど1年前に巨大な甲状腺を手術した患者さんと「僕は、新たな妻を得たよ」の名言のご主人と感激の再会を果たせたことも思い出深いです。
▼1年前の手術活動についてはこちらをご覧ください
僕は、新たな妻を得たよ – ラオス 甲状腺プロジェクト 手術活動
昨年11月に原先生(左)が手術した患者さんご夫婦と。
このミッションは3年のプロジェクトですので、ゴールをどのように設定するか今後学会としても考えていかなくてはならないと思っております。
今回も多くのスタッフの皆様に大変おせわになり、改めて御礼申し上げたいと存じます。
▼プロジェクトの詳細はこちらから
ラオス | 北部・ウドムサイ県での甲状腺疾患治療事業並びに技術移転活動