ラオスは雨季が終わり、乾季シーズンが到来。夜風が涼しくなりました。
ラオス北部にあるウドムサイ県病院にて、雨季に中断していた「甲状腺疾患治療並びに技術移転プロジェクト フェーズ2」の手術活動を11月から再開しています。
手術活動の開始に先立ち、10月半ばに信州大学病院の伊藤研一先生がラオスに来てくださいました。
目的は「甲状腺の内科診療強化」です。今回はその活動の様子をお伝えします。
ウドムサイ県病院では、年4回行われている甲状腺の手術活動に加えて、通年で行われている内科診療があります。
月3~4回、現地の内科医と看護師が診療にあたっています。
ありがたいことに、私たちの活動は地域の口コミで広がり、患者数は毎月増加しており、最近は1日の来院数が40名を超えることも珍しくありません。
また、来院される患者さんは多種多様です。近頃は、10歳以下の小児や妊婦さんの受診も増えました。
そのため、日々学びや経験を重ねている内科医にとっても、診断や治療方針について悩むことが少なくありません。
加えて、内科診療担当のDaochan先生が、今年の6月にビエンチャンの病院へ異動され、これから診療を担ってくださる2名の内科医(Boudsaba先生、Kerxiong先生)に対して技術移転の機会を設けることとなりました。
朝から診察室前に並ぶたくさんの患者さん
最近は小児患者も増えてきた
トレーニング期間は4日間。患者さんを診察しながら、伊藤先生が指導にあたってくださいました。
もともと内科医より「超音波検査の診療技術を向上させたい」との要望があったため、超音波検査の指導を重点的に行ってくださいました。
現地の先生方は伊藤先生の教えに真摯に向き合い、大変熱心に取り組まれていました。
また、とても楽しそうに生き生きと学ばれている姿がとても印象的でした。
私は4月から毎月内科診療に携わってきましたが、こんなに楽しそうに診察されている姿を見たのは初めてのことです。私も嬉しい気持ちになりました。
伊藤先生によるラオス人医師への指導の様子
この4日間を通して、延べ106名の患者さんが来院しました。
毎日忙しかったですが、全員で協力し合い、やり切ることができました。最後にはチーム全員が達成感に満ちていました。
「たくさんの知識や経験を教えてもらい、本当に嬉しい。」と先生方からコメントをいただき、このような機会を設けることができて本当に良かったなと感じています。
今回の診療活動を通して、甲状腺疾患の技術移転のために、また大きな貢献ができたのではないかと考えます。
一人ひとりの暮らし、生き方に寄り添った医療とは、何なのでしょう。
今回、多様なバックグラウンドをもつ患者さんとの出会いを通して、改めて各々が考える機会になったのではないかと感じています。
「寄り添う医療」の答えは患者さん自身がもっています。
その答えに伴走する診療が今後も続くことを願います。
お忙しい中、日程を調整し、遥々ラオスまできてくださった伊藤研一先生。
本当にありがとうございました!
長期ボランティア看護師 岸田侑子
(文責:ラオスオフィス 松原遼子)
参加してくださった先生からのコメント
「2回目のウドムサイ県病院での甲状腺診療支援に参加して」
今年の3月にウドムサイ県病院で甲状腺手術の診療支援に参加させていただきましたが、今回10月14日~17日の4日間、診断、特に超音波検査に関して診療支援を行わせていただきました。
前回の3月に外来診察室にある超音波検査装置を使用した時に、日本で現在一般的に使用されている装置に比べ、画像の解像度がかなり不良であるように感じていたのですが、今回改めて装置を見ますと2018年購入とあり、決してそれほど古いものではないことに気がつきました。
そこで、改めてモニター画面をよく見ますと、かなりの量の土埃が付着していることが分かり、それを入念に拭き取ることで、モニターに映し出される画像がかなり改善することが分かりました。
今回、Boudsaba先生、Kerxiong先生と一緒に検査を行いましたが、超音波検査装置の操作方法のマニュアルが見当たらず、両先生ともに所見の取り方の前に、検査装置の操作に不安を感じていらっしゃることが分かりました。
モニター画面をきれいにし、操作方法の概要を記したものを作成し、二人の先生に装置の使用方法を確認しながら患者さんの所見を取っていただきました。
先生方には非常に熱心に取り組んでいただき、何人もの患者さんの所見を続けて取っていただくことができ、4日目にはある程度の自信を持って(少なくとも装置の操作は不安なく)所見を取っていただけるようになったのではないかと感じました。
これまでにごく短期間、ウドムサイでの診療支援に携わらせていただく機会をいただいただけで、以下の様な感想を述べることは大変僭越とは思いますが、今回、超音波検査の支援を行わせていただく中で、海外医療支援での機器の導入やメンテナンスの難しさを感ずるのと同時に、検査装置を十分にその地域の診療に活かすためには、現地の状況を理解した上で、専門職の方に習熟していただくことの重要性を感じました。
今回もジャパンハートの皆様には大変お世話になりました。
多くの患者さんの情報を整理して対応してくださった看護師の岸田さん、通訳を務めてくださったオーウェンさん、ウドムサイ滞在中の全般のサポートしてくださったスーさん、渡航前から帰国後まで細やかな手配をしてくださった松原さんはじめラオス駐在スタッフの皆様のご尽力と、Boudsaba先生、Kerxiong先生はじめウドムサイ県病院のスタッフの皆様の温かいご理解とご協力のもと、概ね円滑に診療を行うことができましたことに、心より御礼申し上げます。
機会がありましたら、またお伺いして、その後の甲状腺診療の状況を拝見させていただければと思っております。
私自身、貴重な経験を積ませていただきましたことに心から感謝しております。
ウドムサイの甲状腺腫瘍の内容は日本とはかなり異なり、その点でも大変勉強になりました。
ラオスの甲状腺腫瘍と日本の甲状腺腫瘍の違いを研究することができれば、大変面白いのではないかと感じております。
末筆ではございますが、ジャパンハートの活動のさらなるご発展を祈念しております。
伊藤研一
(信州大学医学部外科学教室 乳腺内分泌外科学分野)
▼プロジェクトの詳細はこちらから
ラオス | 北部・ウドムサイ県での甲状腺疾患治療事業並びに技術移転活動