サバイディー、ラオス事業部看護師の高柳です。
第3回目のウドムサイ甲状腺手術活動のご様子についてお伝えしていきます。
今回の手術活動では8名の患者さんの手術を行いました。
手術前のコミュニケーションの大切さ
手術予定は12名でしたが、術前検査で血糖値が高く手術が行えない患者さんや内服での甲状腺ホルモンのコントロールがうまくいっておらず、次回に延期する患者さんが4名いらっしゃいました。
手術前から現地の内科医であるダウチャン先生とともに内服薬での治療を行うのですが、飲み忘れや内服量を間違えてしまう患者さんも多く、遠隔での治療サポートの難しさを感じています。
また内服だけではなく、手術前の準備に関する説明も患者さんや家族への伝えることの困難さを痛感しました。
特に、手術部位の清潔を保つことです。毎日シャワーを行う習慣もないため、体が汚れていることがあります。また、シャワーがなく、水浴びだけを行っている方もいるので、体を洗うことを伝えていくこと自体が難しいこともあります。
手術部位が汚れていると手術後の傷の感染の原因となることもあるので、術前のシャワーを指導するのですが、長年の習慣もあり、うまくいかないことが多いです。
また、現地の石鹸は泡立たないことも多く、洗っても手術部位がきれいにならないことも多くあります。
今回、シャボン玉石鹸様より石鹸のサンプルを提供いただき、手術前に患者さんに手術部位を洗ってもらいました。
とても綺麗になったと患者さんたちからの評判もとてもよかったです。
【石鹸を渡している様子の写真】
現地で広がるジャパンハートの活動
さて、今回手術を受けた患者さんの多くは、手術を受けたいと自ら声をかけてくださった患者さんが多くいました。
11月から始まった手術活動が少しずつ、現地で広がってきていると感じました。
ラオスでは日本とは異なり、インターネットでの情報は多くないため、口コミで広がっていきます。
コロナが落ち着き、活動を再開してもなかなか患者さんまで情報が届いていない状況でした。
11月からの手術活動の積み重ねで、医療が必要な人にも情報が届き始めたのだと嬉しくなりました。
病棟リーダーの看護師コリーさん
今回の手術活動から、現地の看護師さんに病棟のリーダーをお願いすることにしました。
リーダーをお願いした看護師さんはフェーズ1から活動に参加をしてくれているコリーさんという方です。
リーダーをお願いする前から、すでに現地スタッフのリーダー的存在で、後輩指導も積極的に行ってくれています。また、病棟・リカバリールーム、どちらを依頼してもしっかりと患者さんを見てくれるので、安心して任せることができます。
今回の活動でも、現地スタッフへの指示や患者さんの振り分け、後輩指導までしっかりと行ってくれました。スタッフの体調不良で、急に人数が減っても落ち着いて対応をしてくれたコリーさんに本当に感謝をしています。
【コリーさんの写真 右コリーさん、左 サオさん)】
実は、リーダーをコリーさんに依頼する際に、本当に任せても大丈夫だろうかという葛藤がありました。現地スタッフの教育も非常に重要でありますが、何よりも優先しなければならないことは患者さんの安全です。
現地スタッフの教育と患者さんの安全のバランスでいつも悩みますが、そんな不安も吹き飛ばすぐらいしっかりと活躍をしてくれました。
フェーズ1からの活動にコリーさんが真摯に向き合ってくれた結果だと思っています。また、これまで活動に携わって頂いた、たくさんの方々の努力が形になった瞬間だとも思いました。
現地スタッフの教育は非常に時間がかかり、さまざまな困難に直面することも多いなか、ジャパンハートに携わる多くの方々がつないでくださったことに感謝しかありません。
今は結果が見えなくても、私自身が関わったことで少しでも現地の医療が患者さんにとって安心して受けられるようになればと思います。
少しずつではありますが、着実に前進していることを感じられたミッションでした。
参加してくださった先生たちからのメッセージ
今回活動に参加してくださった信州大学医学部外科学教室 乳腺内分泌外科学分野 教授 伊藤研一先生、東京女子医科大学 吉田 有策先生、誠にありがとうございました。
そして、日々ご支援いただいている皆様に感謝申し上げます。
伊藤先生(信州大学医学部外科学教室 乳腺内分泌外科学分野 教授)
今回、初年度の第3陣としてウドムサイでの活動に参加させて頂きました。私は医師を志した頃、海外での医療支援に携わりたいという思いがありましたが、外科を専攻しキャリアを繋いで行く過程で、加えて現在のサブスペシャルティを選択した後は、その様な機会はもう無いだろうと、若い頃の思いをほぼ忘れかけておりました。
しかし、今回、自分の専門領域の技術移転という、思いもかけなかった事業の募集を見て参加を希望させて頂きました。貴重な事業に関わらせて頂く機会を頂き、ジャパンハートの皆様に心より御礼申し上げます。また、ラオスの患者さん達の手術を無事に終えることができ、一緒に手術を行なってくださった吉田有策先生に深謝申し上げます。
私は、ウドムサイに入った翌日から感染性腸炎を発症してしまい、とにかく手術を安全に終えることに精一杯であったため、ウドムサイ滞在中には思い至ることができませんでしたが、医療事情が異なる地域を初めて訪問した医師が、直ぐに手術を行うことができる体制を準備して頂くためには、大変なご苦労があったと思います。
患者さん達が本当に来院してくださるのかも不確かな状況で、複数の患者さん達の手術の準備を何ヶ月も前から行なってくださいました高桺さんはじめ現地のスタッフの皆さんやウドムサイ県病院の先生方はじめスタッフに改めて心から感謝申し上げます。
また、今回現地での責任者を務めてくださった小鯖さん、カンボジアから加わってくださった関山さん、プティさんが、早朝から夜遅くまで手術器具等の準備を行ってくださり、長時間通訳を務めてくださったビッグさん、細かなことをサポートしてくださったスーさん、ラーさんのおかげで概ね円滑に外来や病棟の診療も行うことができました。普段、大きな組織の中で仕事をしていると忘れがちな、個々の役割の大切さを改めて感じたのと同時に、ジャパンハートの皆様の献身的な姿に、本当に頭の下がる思いでした。
ウドムサイ県病院の手術室の様子は、私が医師になった昭和最後の頃の長野県の地域中核病院を思い出すものでした。患者さんの入院中の食事を、ご家族が病院の敷地内のかまどで調理していることは驚きでしたが、家族が多勢で寝泊まりし、皆で病室で寛いでいる姿や、子供の泣き声が聞こえ、犬が自由に歩き回っている様子を見ると、日本で失われてしまったものを感じ、感慨深いものがありました。
このプロジェクトの目的は甲状腺手術のラオスへの技術移転ですが、今回は一般外科から整形外科までこなす素晴らしい技術をお持ちの2名の現地の先生方と一緒に手術を行いました。
術者をやって頂いた際に、「コーイ、コーイ(やさしく、やさしく)」で操作すべき所など、ある程度の説明はできたと思いますが、残念ながら手術後にディスカッションをする時間がほとんど取れませんでした。多くの経験をお持ちの先生方なので、我々が甲状腺手術の肝と考えているところをお伝えすれば、直ぐに実践されると思われます。勝手なお願いで恐縮ですが、次にウドムサイに行かれるチームの先生方には、是非、手術に関するディスカッションを十分に 行なって頂く時間をお取り頂ければと思います。私自身も、機会がありましたら、是非また参加させて頂きたいと存じます。
今回、短い期間ではありましたが、様々な医療資源が乏しい中で外科診療を行う貴重な経験を頂きましたことに心から感謝しております。末筆となりましたが、ラオスで手術を受けて頂いた皆様のご健康とジャパンハートの活動のさらなるご発展を祈念しております。
吉田先生(東京女子医科大学)
高校生の頃、コソボの紛争地域で活躍する青年海外協力隊の記事を見て医師を志した頃のことを思い出しました。「いつかは自分も」という当時の想いを叶えることができ、このような機会を下さったジャパンハートと内分泌外科学会の皆様に感謝しています。
実際にウドムサイで活動してみると、貧困地域、医療過疎地域で医療を受けるということの困難さがよくわかりました。今回は8名の患者さんの手術を行いましたが、入院中は家族が付き添い、術後の食事も家族が作るという、現在の日本では考えられない状況ではありましたが、家族の強い絆を垣間見ることができ暖かい気持ちになりました。
今回ウドムサイでの手術支援活動をお手伝いさせて頂き、その成功にはラオス政府、地元の医療機関およびスタッフ、患者さん、ご家族、そして金銭的な援助をして下さる方々の協力が必要不可欠であることを学びました。こういった方々の想いをつなげているジャパンハートの活動をこれからも応援しています。
ラオス事業部看護師 高柳
▼プロジェクトの詳細はこちらから
ラオス | 北部・ウドムサイ県での甲状腺疾患治療事業並びに技術移転活動