サバイディー!ラオス事業部長の杉山です。
11月20日から22日にかけて、ラオス・ウドムサイ県での手術活動が実施されました。
今年の9月にキックオフミーティングを行い、第2フェーズに突入した、甲状腺疾患治療事業並びに技術移転プロジェクト(以下、甲状腺プロジェクト)の、初めての手術活動になります。
(キックオフミーティングについてはこちらをご覧ください)
第2フェーズは、一般社団法人日本内分泌外科学会とのパートナーシップ協定を結び、同学会からのお力添えをいただきながら、現地での医療活動を行っています。その下で、今回は2名の医師が同学会から参加してくださり、同時にお越しいただいたジャパンハート認定医の遠藤俊治先生を合わせた3名の外科医によって、手術活動が行われました。
同学会よりお越しいただいた原尚人先生、友田智哲先生は、今回がジャパンハート事業地にて始めての活動となりましたが、過去には海外での手術経験もあり、戸惑うことなく手術を実施してくださりました。また、本プロジェクトの大きな目的の1つでもある「技術移転」の分野においても、丁寧に現地病院の外科医のフォローをしたり、指導をしたりしてくださったおかげで、12件の手術の内6件では、現地人医師が執刀して手術を行うこともできました。12名の患者さんは既に退院しており、この記事を執筆している現時点では、元気に日常生活を送られています。
甲状腺プロジェクトは、毎回の手術活動で12名の患者さんの手術を行うことを目標として掲げています。
しかし、連絡が着かなくなってしまうケースや、術前診察で健康状態がよろしくなく、手術を一旦断念しなければならいといったケースも多々あります。そういった際には、次点で手術を待つ患者さんに手術のご提案を差し上げるのですが、今回は少しだけ変わったケースが発生しました。
次回以降に手術を受ける患者さんの中に、1人大きな腫瘍を持つ患者さんがいらっしゃいました。早くて1月の手術活動の際に手術ができればということで、今回お越しいただいた3名の先生方にその診察をしていただいたところ、なるべく早めに手術をした方が良いという決断にいたり、ちょうど予定していた患者さんのキャンセルもあったため、急遽今回手術を行うことになりました。
しかし、突然のことで病院スタッフや患者さんにも不安な気持ちがよぎり、始めは難色を示していました。それでも、先生方が丁寧に説明をし、もちろん強制することはなく、最後にはそれぞれ1人1人の意思で、手術を実施することになりました。
その患者さんは女性で、旦那さんが常に病院で付き添われていました。心配する気持ちでいっぱいだったとは思うのですが、それでも私たちを見かけると笑顔で挨拶をしてくれる、とても陽気な旦那さんでした。
手術は無事成功し、しばらくしてきれいな首元になった奥さんを見た時に旦那さんは、私たちに向かってこう言いました。
「僕は、新たな妻を得たよ」
患者さんの首元は腫瘍で大きく膨れ上がっていました。それが術後には見事になくなり、すっきりと首の長い女性の姿がそこにはありました。その様子を見て、旦那さんは惚れ直し、その気持ちを伝えてくれたようです。もちろんこれまでも、旦那さんは奥さんのことを心から愛していたと思います。例え首元が大きくはれ上がっていても、その気持ちがぶれることはなかった。それでも、より綺麗になった奥さんを見てそんな言葉がついつい口をついて出るくらい、患者さんご本人だけではなく、旦那さんやその周りにいる人々にも幸せを届けられたのだと思います
「すべての人が生まれてきて良かったと思える世界を実現する」
私たちが掲げているビジョンにまた一歩近づけたと思う瞬間でした。決して派手な活動ではなくても、患者さん1人1人が笑顔で帰っていく様子や、現地病院の医師や看護師が「学ぶことができて良かった」と感謝を告げる様子を目の当たりにして、改めてこの活動の意義を再認識しました。
甲状腺プロジェクト第2フェーズはまだまだ始まったばかり。これから3年間をかけて、患者さんの治療と技術移転の両面で、さらに大きな幸せを生み出せるように精進してまいります。
最後に、今回参加してくださった先生方からのコメントを頂きましたので、こちらもぜひご覧ください。
日本内分泌外科学会理事長 筑波大学乳腺甲状腺内分泌外科教授 原尚人 先生
「まずジャパンハートのボランティアスタッフの崇高さに感銘を受け、現地医療スタッフの意識が日々変わることにわくわくいたしました。そして患者さん達やそのご家族に感謝されたことが何よりうれしかったです。自身の原点を思い出せましたし、いろいろ勉強になりました。個人的にも学会としてもこのパートナーシップが末永くうまく続くことを心より願っております。今回お会いできたすべての皆様、本当にありがとうございました。」
日本内分泌外科学会 伊藤病院外科医長 友田智哲 先生
「今回の参加では、手術患者12名の方を中心に携わることになりました。日本とは異なる病棟管理(家族が泊まり込みで世話をし、食事の準備をする)や、手術中に停電や酸素が不足するかもしれないという状況下での手術指導になりました。甲状腺重量が600gを超える腺腫様甲状腺を持つ患者さんも来院され、今回の予定手術ではなかったのですが、気道狭窄による呼吸困難の可能性があり、準緊急的に執刀させて頂くことになりました。輸血の準備(家族の方の献血)や、挿管困難が予測された為、約300km離れた首都のビエンチャンから麻酔科医が急遽駆けつけてくれました。幸い気管切開や輸血等は必要なく、無事元気に退院されました。旦那さんからの感謝のお言葉を頂き、本人から我々スタッフに健康のお守りである”さいしん”を手首に巻いてもらいました。3日間の手術翌日にあたる最終日には、病院を離れなくてはいけなかったのが、とても心残りではありました。一方で、患者さんが全員退院できるまで病院に残ってくださった看護師さんが、何にでも適切に対応してくれましたので、安心して任せることもできました。
最後になりましたが、一緒に活動したすばらしいスタッフの方々や、ラオス人麻酔科医、外科医、看護師に本当に感謝しています。また医療支援できるように自己研鑽を続けたいと思います。」
ジャパンハート認定医 川崎医科大学消化器外科学准教授 遠藤俊治 先生
「素朴なラオスの片田舎での手術支援を通じて、普段の日本での診療で忘れていたものを思い出させてもらえたような気がします。またぜひ参加させていただきたいと思います。」
ご参加いただきました先生方、誠にありがとうございました。引き続きのご支援・ご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。
ラオス事業部長 杉山
▼プロジェクトの詳細はこちらから
ラオス | 北部・ウドムサイ県での甲状腺疾患治療事業並びに技術移転活動