活動レポート

← 活動レポート:トップへもどる

医療との距離 -6月に手術を行った患者さんに対する術後1ヶ月診療活動のご報告-

up 2022.08.29

2022年6月にラオス北部ウドムサイ県病院で吉岡秀人医師による甲状腺手術活動を行いました。
7月下旬、その手術を受けた患者さんに術後1カ月の診療を行いました。
今回はその報告とともにラオスの人たちの「医療との距離」を通して見えた診療活動の大切さについてお伝えしたいと思います。

6月に手術を受けた17名のうち15名の患者さんが診察を受けに来てくれました。受診されたうち2名の患者さんは今回の診察の結果、通院が必要なくなりました。
一方で手術を受けた全ての患者さんが、通院不要となるわけではありません。手術後も継続して内服治療が必要なことがその理由の1つです。

甲状腺は首の中央あたりにある4、5cmの小さな臓器です。新陳代謝などを整える甲状腺ホルモンを作りだし、身体の機能を保つ役割を担っています。
手術後に甲状腺がどのくらい残っているかで作り出せるホルモンの量も変化します。ホルモン量が正常でないと様々な症状が出て生活に支障をきたすこともあります。
東南アジアでは薬を自由に購入することができますが、ラオスでは甲状腺の薬は限られた薬局でしか売っていません。
また、ホルモン量や症状をみながら医師が内服量を調整するため、診察に通う必要があります。

6月の手術では8名の患者さんが甲状腺を全て摘出しました。こちらの患者さんたちは採血検査でホルモン量を確認し、薬を飲み続けないといけません。
内科診療は手術をする上でなくてはならない活動です。
薬の処方に限らず、術後の傷の状態や手術をしたことで何か不便が起きていないか、など追加で治療や処置をすることもあります。
もちろん手術前の受診や内科治療のみを必要としている患者さんもたくさんいます。
会話のなかで見え隠れする患者さんの日常に寄り添いながら、より良い生活につながるように関わる大切な過程の1つです。

国際看護研修生:坂本さん、ラオスでの活動を全力で取り組みました。

ところで「2名の患者さんが術後1ヶ月の診察を受けてないのでは?」と気づかれた方もいると思います。
おひとりは連絡が途絶えてしまいました。もうおひとりは交通手段がなく診察に来ることができませんでした。
これらの理由で診察に来ないことは、ラオスでは珍しいことではありません。

2人の患者さんは、それぞれHmong(モン)族とKhmu(カム)族という少数民族です。彼女たちはラオス語を話すことができません。また生活や文化も少し違いがあるそうです。

そのため入院中、ストレスを強く感じていたように思います。例えば「モン語⇄ラオス語⇄日本語」の通訳が必要になります。
しかし、ストレスの原因は言語だけではなかったように感じました。
普段、体調を崩した時にまず選択するのは伝統療法であって病院ではありません。
また、彼女たちは普段の生活で時計やカレンダーをほとんど使わないそうです。

私たちにとって当たり前の生活は彼女たちにとっては強制のように感じたかもしれません。さらに制限が必要となる病院という場所は彼女たちにどのように映っていたのだろうか…

その患者さんは気管切開をしたため予定より長く入院することになりました。
日頃からあまり笑顔を見せないその患者さんが、畑と遠くの山並みを眺め「畑が心配。家族の負担が増えている…」と言われた時に、治療を受けることの重さを感じました。

ジャパンハートで活動をしていると「ありがたさ」として治療の重みを感じることがあります。
しかし、今回は「こんなことならば…」という後悔に近い治療の重みでした。これはラオスに限ったことではないですし、今回初めて感じたわけではありません。
東南アジアで活動をしていると日本とは違う治療の重さの違いを感じる場面にたくさん出会います。

病院という非日常空間で、患者さんが感じる不安や辛さを拭えていたのか…
診察活動中、その患者さんに思いを馳せていると、診察を待っていた患者さんが笑顔で感謝の言葉をかけてくれました。「手術をしてもらえて本当に良かった。だから親戚も診てもらいたくて連れてきたよ」と。
その瞬間、手術活動だけでは得られない私たちへの答えのようなものを診療活動では与えられているように感じました。

今回手術を受けた最高齢のお二人。「生活が楽になったよ」と笑顔で。

今回の診療活動で最も遠くから来た患者さんは10時間バスを乗り継いでウドムサイ病院まで来てくれました。道中には山肌が剥き出しの険しい山道が何度も現れるそうです。
また、ある患者さんは橋がなく川を徒歩で渡らないと来られないようなところに自宅があります。
ウドムサイは山間部であり寒暖差から霧が多く発生します。現在雨季真只中のラオスでは、北部山間部の霧の発生率は上がりますし、土砂崩れや川の増水も日常茶飯事です。
そして、田畑を耕し家畜のお世話が主な仕事であるラオス北部の人たちにとって、誰かが病院に行くことは働き手が減ることにもつながります。

「ラオスの車窓から」ウドムサイ県山間部の風景。どことなく日本に似た美しい田園風景が広がります。

病院に来ることはラオスの人たちにとって簡単なことではありません。
診察に来ないことを認めることは医療者として無責任であると思います。
服薬治療や手術を受けることで症状が良くなり、生活をより豊かにするなど、疾患と治療に対する知識を正しく伝えることも私たち医療者の役目です。
治療によってその人とご家族がより多くの幸せを得られること、困難さから解放されること、それを伝えていける活動をしたいと強く感じました。
そしてそのためには、医療というものが、その人たちにとってもっと身近な存在になるような診療活動を行うことが重要であると思います。

しかしどんなに治療の大切さを伝えても、病院に来ない選択をする人もいます。それぞれの「医療との距離」が行くか行かないかの選択につながるのだと思います。
その答えは私たちが想像するよりも広い日常の風景と物語があるのだと思います。そしてその選択を価値観や文化の違いで片付けてはいけないと思います。
患者さんの感じる医療との距離が減らせるような関わりができるかどうか、大切な課題だと感じました。

私たちの想いだけでなく患者さんやご家族の生活を尊重し、それぞれの医療との距離を知り、そこに寄り添ったもっと身近に感じられる医療と想いをこれからも届けていきます。

診察を終えた患者さんが2時間の道のりを息子さんが運転するバイクに乗って帰って行きます。

ラオス事業
看護師 吉田真弓

 

▼プロジェクトの詳細はこちらから
ラオス | 北部・ウドムサイ県での甲状腺疾患治療事業並びに技術移転活動

Share /
PAGE TOP