活動レポート

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患者さんの笑顔があふれた活動

up 2022.08.16

「楽しかったです!」ウドムサイで居残りケアをしていた時の感想を笑顔でそう答えた国際看護師研修生の坂本さん。
実に3年半ぶりに研修生がラオスに入って活動をしました。奮闘したその姿と感じた想いはとても素直で優しさに満ちたものでした。少人数で活動するラオスでは1人1人に求められることも多く、壁にぶち当たる場面もあったと思います。それでも持ち前の安定感と朗らかさで、1つ1つ彼女らしく進み取り組んでくれました。
四六時中看護を通して患者さんに向き合った坂本看護師の想いと、だからこそ見ることができたラオスの素敵な風景を、ぜひご一読ください。(ラオス看護師:吉田)

私は、長期看護師研修生として普段は、カンボジアにて医療活動に従事しています。今回はラオス・ウドムサイ県病院にて、甲状腺疾患の手術活動に参加することができました。
当初20名の甲状腺疾患の患者さんを手術予定として準備に取り組んでいました。
しかし実際には術前検査において、残念ながら手術することが出来ない患者さんもおり、結果的には17名の方が手術を受け、無事に退院する事が出来ました。

ラオス北部にあるウドムサイ県は山岳地帯が多く生活背景から病院へ容易に受診できないため、何十年も受診出来ずに腫瘍が大きくなっている特徴があります。
そのため、術後気管切開管理を必要とした患者さんがいたり、術後出血により再手術となったりする患者さんもいました。
手術活動開始から全ての患者さんが退院するまでの23日間は私にとってこれまでにないくらい時間が過ぎるのが早く、でも1日1日がとても濃い日々になりました。

活動中は手術室と病棟を担当しました。1日2〜4件の甲状腺手術を5日間実施しました。
その中でも出血により再手術となったケースは、今でも鮮明に記憶する衝撃的な光景でした。甲状腺手術では出血のリスクは付きものではありますが、そのリスクが高いか低いかは患者さんの病態により異なります。
私は手術看護としてこのリスクアセスメントが不足していたと感じました。この様な環境下では、たとえば輸血が常備されていて直ぐに使用出来るとは限らないし、物品や薬剤にも限りがあります。
限りある中だからこそ、リスクアセスメントを繰り返しながら、リスクに対する対応をいくつも考え、その場で実践したり病棟へ伝達したりすることが重要だと感じました。

術後の患者さんの状態が安定してきた時期から、患者さん全員が退院するまでの間、私と通訳スタッフの2人で治療や看護ケアを継続する「居残りケア」をしました。
6人の患者さんと24時間一緒に過ごし、通常の看護ケアに加えて、治療の方針、退院の時期、退院時の薬剤処方の準備、そして退院指導…それらの判断を自分でしなければなりませんでした。
患者さんの全体像を捉える時に、多方面から観察して情報を取りきれていなかったり、アセスメントするための根拠が乏しかったり…これまでの研修期間で意識していたはずの行動が、実は周りの仲間達にとても助けられ、頼ってしまっていた事を、この様な環境にいたからこそ改めて痛感しました。

トゥクトゥクとバスを乗り継いで帰宅する患者さん。他には車のほか、バイク、軽トラの荷台に乗って退院していった患者さんもいました

患者さんがひとり、またひとりと退院することは、本当は喜ばしいことですが、居残りの時期に初めて退院を見送った時には、今まで感じていた「自宅に帰ることができて良かった」と思う嬉しさよりも、「今後は大丈夫だろうか。こうしてあげることも出来たのではないか」と、心配な気持ちと後悔と、そして看護師1人で見送る責任の重さに、少し怖さに近い感情がありました。

このような感情が芽生えることは初めてでした。ここの病院に来るために、患者さんによっては1日以上かけ山を超えて来る方もいましたし、川を渡る必要がある方は、雨季の時期天候が悪ければ行くことさえ難しい患者さんもいました。
さらに、近所に病院や薬局がない環境に住んでいる方もいます。だから、入院時から退院を加味した準備が大切であり、それをやりきれなかった想いから、前述したような感情が出たのかもしれません。

また、ここで行う退院指導は患者さんに対する個別指導が1番反映出来る場でもあります。
患者さん個々の病態と術後の状態、それらにより今後起こるかもしれない症状、傷の治癒経過に加えて、住んでいる地域の状況、生活背景、習慣等をこれまで以上に考え、伝え方も含めて個別指導に反映できることがたくさんありました。
もちろんそこには、価値観の違いや先入観が邪魔していたことに気付かされることもありました。

もうひとつ印象的だったことがあります。
それは、冒頭でもふれましたが、ほぼ全ての患者さんの腫瘍が大きく、長いと20年30年経過していたということです。
つまりそれは、腫瘍を抱えながら何十年も生活されており、普通の生活を送ることさえ困難なことがたくさんあったのではないかと感じざるを得ませんでした。
ある患者さんの旦那さんは「私が代わりに、これをとってやろうと思ったことがありました」と心境を話してくれました。
私は患者さんのこれまでの経過を見てきたわけではありませんが、これまでの患者さんと家族の葛藤がその言葉につまっている様で、その言葉の重みをひしひしと感じました。
その患者さんが、気管切開チューブを抜いて、「サバイディ」と挨拶する声を聞いた時の旦那さんの笑顔が忘れられません。
そして退院の時には、患者さんも家族も、みんながとても素敵な笑顔で感謝の言葉を伝えてくれました。いつも耳にしている「コプチャイドゥ(ありがとう)」、という一言にもまた言葉の重みを感じました。

心境を話してくれた旦那さん。退院間近になると率先してガーゼ交換を覚えてくれました

居残り期間を過ごした約1週間は、これまでにないくらい患者さんを近くで感じました。
目的を持ってさえいれば、患者さんにとって必要だと考えるケアは何でもトライ出来る環境にあります。
患者さんのことを四六時中考え、患者さんの良くなっている面も悪くなっている面も、側にいるからこそ少しの変化に気が付くことができ、その変化に心から一喜一憂している自分がいました。
そしてまた患者さん1人1人と向き合う時間がもてること、そして患者さんとその家族を1人の「人」として向き合うことが出来ること。ここの場で、患者さんと過ごした時間は特別で、今まで味わったことのない「看護の魅力」を感じました。

最後に、甲状腺を摘出したことで、患者さんによってはこの先もずっと内服が必要な方もいます。
そして今回手術を受けられなかった患者さん、手術の時期を待っている患者さんもいます。現地の病院と協働しながら、この活動で患者さんの笑顔がふえることをこれからも願います。

長文となりましたが最後まで読んでいただき有難うございました。そして、この手術活動の成功のために尽力してくださった多くの方々に感謝致します。

58期看護師研修生 坂本真南

 

▼プロジェクトの詳細はこちらから
ラオス | 北部・ウドムサイ県での甲状腺疾患治療事業並びに技術移転活動

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