~たくましく愛情深い八代保健師チーム~
7月4日に発生した令和2年7月豪雨の報道を受け、ジャパンハートは九州地方の関係者および国際緊急救援事業(iER)ネットワークを通して現地の被害情報を集めながら、被害状況が深刻な九州地方に先遣隊として入り調査活動を開始しました。
そしてその後、支援を決定して7月8日より始めた熊本県八代市(のちに人吉市まで支援を拡大)での物資・医療支援は、8月31日をもって終了しましたことを改めて報告いたします。
皆様の温かいご支援に心から感謝申し上げます。誠にありがとうございました。
以下に、ジャパンハートが最も長く支援に携わった八代市の避難所で活動を共にした、八代市の保健師さんについて、記載させていただきます。
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私たちジャパンハートは先遣隊として現地調査に入ってから、東京本部から寄せられる情報および現地で入手した情報を手掛かりに、熊本県八代市坂本町をはじめ近隣の住民約250人が避難する「八代トヨオカ地建アリーナ」での物資・医療ニーズを確認し、7月8日より支援活動を決定。同避難所で唯一の医療系NPOとして、活動を開始しました。
ジャパンハート看護師と熊本県看護協会から派遣された災害支援ナースは、八代市保健センターの保健師チームをリーダーとし、救急搬送、発熱・体調不良などの有症者対応、所在確認のための区画整備、転倒予防やコロナ感染予防対策としての環境整備などを担当。市の保健師さん達は、県や市との調整などをしながら全体を見る、という役割分担で「避難者を安全な状態に保つ」という目的に向かって協働していきました。
しかし、活動当初は急性期ということもあり、避難所は入所・退所者の数が多く、毎日出入りする方々の身元確認が精一杯で、個別の健康状態などへのアプローチが難しい状況でした。環境の変化から、持病の悪化、体調不良、転倒が起こるなど様々な問題が勃発し、救急搬送が毎日数件あるような状況でした。
さらに、八代市の中でも被害が甚大な坂本町は道路や橋が崩壊し、孤立している集落から被災者の方々がヘリコプターで運ばれてくる可能性があり、市の職員さん・保健師さん達は近くのコミュニティホールに新たな避難所を開設する整備にも追われていました。八代トヨオカ地建アリーナは、コロナ感染予防対策のため収容人数を通常の半分に抑えており、これ以上は入所できない状況だったのです。
実は、保健師さん達は、新型コロナウイルスの感染拡大予防のため、検診や予防注射などの通常業務を6月から再開したばかりで、今回の発災によって業務スケジュールがパツパツな状況でした。交代制とはいえ、24時間体制での避難所勤務により、誰の目から見ても彼女達の疲労が蓄積しているのは明らかでした。
それでも保健師さん達は、避難者の方々が安心・安全に避難所生活が送れるようにはどうしたらいいかを、決して妥協せず、私たちと一緒に考えてくださいました。
「便秘の方が多いから、牛乳や野菜ジュースを追加しましょう」
「全体的に血圧・血糖が高くなっているので、減塩・低カロリー・量少な目のお弁当を入れましょう」
「家屋の片付けで外出される方は、帰所時に体調確認、水分補給を促しましょう」
・・・など、食事の工夫をしたり、熱中症対策・転倒予防のため靴箱の設置場所を変更したり、マスクや消毒用のアルコール、体温計をより効果的に利用してもらうための設置場所の工夫をしたりなど、日々の活動の中での私たちの気づきや意見に耳を傾けながら、改善策を一緒に考えてくださいました。
避難所という非日常的で、ほとんどの方が初めての経験。何が正解かも分からないような状況です。それでも日々「さらに良くするには?」を考え続けるホスピタリティの高さ、保健師という仕事へのプライド、彼女たちと一緒に活動をさせていただく中で、私たちジャパンハート看護師は多くのことを学びました。
そんななか、保健師さん達から度々出てくる言葉は、
「坂本町に残っている人たちは大丈夫かな」
「早く坂本町に行きたいね」
・・・など、直接会って状況が確認できない(自衛隊などにより安否の確認はできていました)住民の方々のことでした。
「薬は飲めてるかな」
「薬が切れてないかな」
「独居の方はさぞ不安だろうな・・・」
発災後も線状降水帯の影響で激しい雨が約1週間続きました。
避難所の方々でさえ、雨が強くなると不安が増強したり、眠れなくなったりしていました。停電して、情報も得られない孤立地域の方々の不安や恐怖は想像を絶するものであったのではないかと、保健師さん達は案じていたのです…。
ジャパンハート看護師のミッションは、
「避難所運営を出来るだけ早くにこちらで巻き取り、保健師さん達に1日も早く地域に戻ってもらう事」
徐々に徐々に保健師さんの常駐人数を減らしていくことが実現し、災害支援ナースの撤退により、8月10日からはジャパンハート看護師で24時間、避難所運営を行いました。
それでも保健師さんは、通常業務や被災地訪問で多忙な中、毎日必ず避難所を巡回して私たちとの情報共有を行い続けました。
そして道路の一部開通も進み始め、保健師さん達は孤立地域となっていた坂本町へ訪問に向かえる状況となりました。
8月下旬、私は坂本町訪問に行く保健師さん達に同行させていただきました。
発災から約2カ月経過してやっと道路や橋の一部開通という状況で、“復興” は進んでおらず多くの瓦礫がそのままの状態となっていました。
連日猛暑でこの日も気温は37度超え。油断したら自分たちが熱中症になりそうです。そんな中、保健師さん達は山道をずんずん上っていきます。私はついていくのに必死でした。家と家の距離もかなりのものです。2本持って行ったペットボトルはすぐ空になりました。
訪問させていただいたのは、孤立はしていたものの、家屋は無事で、避難せずに自宅にとどまっている住人の方々。その中でも、独居・高齢者世帯・持病など、何かしら介入が必要であろう方々です。
1軒1軒、訪問。
食事は摂れているか、薬は飲めているか、持病悪化の有無などを確認します。
住人の方々に再会した時の保健師さん達の本当に嬉しそうな顔がとても印象的で、今でも心に残っています。
この時、ジャパンハートの災害支援活動のモットーである
「支援者支援」
を達成することが出来たのではないかと実感することができました。
坂本町の方々がかかりつけとしていた病院2カ所もみなし診療所での再開し、私たちの活動していた避難所の避難者さんも仮設住宅・みなし住宅へ入居が進み入所者数が90名程度にまでに減少したことなどから、8月末日をもって活動を終了いたしました。
今回、ジャパンハートからは30名近くの看護師が支援活動に携わりました。
避難所での支援活動に加え、避難所特有の「密」な環境で、「新型コロナウイルス感染を発生させない」というもう一つのミッションがあり、今までにも増して緊張が伴う状況ではありましたが、無事に活動を終了することができました。
このご時勢、県外から人を避難所に入れることは大変な決断だったのではないかと想像しています。熊本県では県外からの一般ボランティア(がれき撤去などの)は受け入れをしていませんでした。
それでも、八代市がジャパンハートを受け入れてくださったのは、私たちが医療団体であり基本的な感染予防策が取れていること、全員がPCR検査を受けてから活動に入る体制を取っていたことなどがあるとは思いますが、一番は、「地域の人を安全な状況に置きたい」という保健師さん達の愛情からくる決断だったのではないかと思っています。
今回の活動を通して、八代市の保健師チームのたくましく愛情に溢れる活動に触れさせていただき、支援に入らせていただく立場ではありましたが、私達ジャパンハート看護師は多くのものを学んだのではないかと感じております。
まだまだ、復興には時間がかかることが予想され、保健師さん達は多忙な日々が続くとは思いますが、きっとこれからも、たくましい精神で大きな愛情を八代の皆様に届けていくのだろうと思います。
深い教えをくださった八代市の保健師さん達との素敵な出会いに、この場を借りて御礼申し上げます。
誠にありがとうございました。
そして一日も早い街の復興を心からお祈り申し上げます。
ジャパンハート看護師 宮田理香