活動レポート

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鳴りやまない「音」、拾いたい「声」〜第6波との戦いを乗り越えて

up 2022.03.23

2022年2月18日、大阪市保健所の一室で、ジャパンハート国際緊急救援事業部(iER)スタッフ4名と保健所関係者の打ち合わせが始まりました。

当時の大阪府では、入院患者や宿泊・自宅療養者の数が1日あたり14,000人を超えており、中でもリスクの高い方が多数含まれる高齢者施設への医療介入が論点でした。
それを踏まえて、入院調整が困難な状況を解決するため開設された「入院待機ステーション」に加え、救急車の出動台数ひっ迫を緩和するための「トリアージセンター」が始動するとのこと。
それらの施設運営にも介入を依頼され、耳慣れないシステムや業務内容が多い中、手探りでのスタートとなりました。

これまでのジャパンハートの人的支援活動の多くは、自治体または病院・施設から直接、「〇〇病院/施設でクラスターが発生し、人員が不足しているので、看護師を派遣してほしい」という具体的な要請を受けての現場介入でした。

しかし今回は、大阪で起こっている数々の課題に対し、自分たちの経験を活かしながらも、どのようにアプローチすべきかの戦略から、具体的なオペレーションや調整まで行わなければなりません。
ジャパンハートは、「待機ステーション&トリアージセンターチーム」と「保健所クラスター支援チーム」の二手に分かれて支援を開始しました。

入院待機ステーションは「病床がひっ迫した際に、入院治療が必要にもかかわらず入院待機となった患者を一時的に受け入れる施設として、酸素投与や投薬治療ができるように医療機能を強化した宿泊療養施設」です。
この形態の施設は主に第4波以降、全国的に設置が進んでいますが、今回、大阪に新設されたトリアージセンターは「陰性か陽性か確定していない救急患者が救急車内で何時間も待機することを避けるため、一時的に預かりPCR検査を実施することで入院調整に繋げる」という目的で作られたものでした。

もともとは入院先を見つけるまで、短時間の待機のみを想定した施設だったため、プレハブ内に簡易ベッドが6台、仕切りなしに並んでいて、プライバシーはほとんどない空間です。
大阪の2月の夜は寒く、救急車で運ばれてくる方たちは長時間の救急車待機に伴って低体温になり、状態が急激に悪化していく方が何人もいました。
毎日毎日鳴りやまない救急車の音が耳を刺すように響き渡っており、状態が悪化していく人を見送らざるを得ないことに、無力感と共に恐怖さえ感じました。

それでも、患者は容赦なく送り込まれて来ます。医療者でも怖いと感じる瞬間が多くあった中で、保健所から参加している非医療者のスタッフなどは医療現場が初めてという人も多く、負担も大きかったに違いありません。
このような状況で、ジャパンハートとして、課題点を挙げたり、マニュアルや引き継ぎ資料の作成をするなど各スタッフをつなぎ、安全に医療提供できるような仕組みづくりを模索していきました。

一方、保健所クラスター支援チームは、電話の対応に追われていました。クラスター発生施設リストを確認して施設概要や感染状況の情報分析を行い、ジャパンハート独自の観点で支援が必要な施設をピックアップしていきました。

しかし、実際に電話をすると、返ってきたのは「あと1週間早く電話が欲しかった」「もうクラスターは終わっている」「遅すぎる」などの悲痛な声でした。初動で支援に入れないことにより、感染が拡大し、入居者が重症化したり、死亡したりした例が少なからずあったのです。

3月8日の読売新聞記事によると、第6波では府内の高齢者施設3439か所のうち9.1%(313か所)でクラスターが発生しており、計5662人の感染が確認されたとのこと。
ジャパンハートは2月19日から3月8日の約20日間に88件を調査し、29件を訪問。その上で、訪問時に状況を分析し継続支援が必要と判断した施設4か所に、常駐支援に入らせて頂きました。
また、訪問後も定期的に電話やメールにてフォローアップを行い、保健所と情報交換を行いながら、必要な施設には、医療提供・物資支援・感染対策指導などを実施していきました。

新型コロナウイルス感染症の拡大が始まってから、およそ2年。保健所の方々は、ずっと通常業務を続けながら、新たな感染症の脅威に対応しています。
電話対応をしながら、ある保健師さんが「私たちも本当は現場に行きたいんです。だけど今は電話で伝えることしか私たちにはできないから……」と口にしたのが印象に残っています。

感染者の急激な増加を受けて、全てのケースを訪問できる体制ではないことや、その他のさまざまな理由によって、訪問に行きたくても行けない保健師さんたちの「声」にハッとさせられました。
保健所で働く誰もが「ちゃんとケアを届けたい」と思っており、地域の人を良く知っているからこそ、自分の目で見て現場の人と話したいという使命感を誰よりも持っているのだと気づかせて頂きました。

ジャパンハートでは、新型コロナウイルス感染症の拡大をひとつの災害として捉えています。日本赤十字社も、医療の観点からみた災害を「医療の需要と供給のバランスが崩れて、よそから助けが必要な状況が急に起こった事態」と定義しています。

残念ながら、第6波では大阪での死亡率は全国ワースト1位でした。
本当は医療が届けられたはずなのに、届かなかった現実があります。
私自身も毎日、自問自答を繰り返していました。

「私たちの支援に意味はあったのだろうか、遅かったのではないか」

悲しい出来事を耳にするたび、拭えない罪悪感と戦っていたような気がします。
しかし、仲間といつも「目の前の人と向き合い、昨日よりもまだマシな状態を作ろう、自分たちができることをしよう。それしかできないから」と話をしていました。

ジャパンハートはこれからも、現場で必要としてくださる方のもとに、いつでも駆けつけます。
「昨日よりまだマシな状態」を目指して、現場の人達と共に考え、行動する、現場の代弁者であり続けたいと思います。

ジャパンハート看護師 洞口

▼プロジェクトの詳細はこちらから
国際緊急救援(iER) | 新型コロナウイルスと闘う人々を支え、医療崩壊を防ぐ

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