スォースダイ(こんにちは)、カンボジア駐在助産師の菊地南です。
いきなりですが、
わたしは小さい頃、聴覚に障がいのある人たちや手話を使う人たちと交流がある時期がありました。教えてもらった手話で歌を歌ったりするのはとても楽しく、遠くにいる人と大声を出さずに手話で会話できるのは便利でおもしろかったのを覚えています。思えば、違う言語に触れた初めての経験だったかもしれません。自分の分からない言葉で通じ合う人たちに興味津々でしたし、純粋にかっこよく見えていました。
今回は、ある1人の妊婦さんのお話をしたいと思います。今回が、3人目の妊娠。13歳の男の子と、11歳の女の子がいます。この兄妹は、2人とも耳が聞こえません。一度、認定医の耳鼻科の先生が聴覚検査の機械を持込んでくださり、2人を診察していただきました。先天的な聴覚障がいの可能性が高く、お腹の中にいる赤ちゃんも同じ障がいがあるかもしれない、という説明をしました。お母さんは驚く様子もなく、受け入れている様子でした。
びっくりしたのは、この2人が普通の小学校に通っていて、授業を受けており、なんと成績優秀ということ。お母さんとのコミュニケーションは、読唇と身振り手振り。家族の中での独特な方法で、コミュニケーションをとっていました。
お姉ちゃんは、ほとんど毎回妊婦健診に一緒に来ます。とてもシャイな子なのですが、妹の誕生が待ちきれないようでした。ある日の健診で、赤ちゃんの心臓の音を持続的に聞く機械をお母さんのお腹に付けました。お母さんは「赤ちゃんの心臓の音を聞いているんだよ」と説明すると、見たことのない機械に興味深々な様子でした。
どうにか、この子に、赤ちゃんの心臓の音を伝えたい・・と思いました。ふと、この機械のスピーカーに手を当ててもらえば、赤ちゃんの心臓の音を、振動で感じることができるのでは!と閃きました。
お姉ちゃんの手をとり、機械のスピーカーにそっと触ってもらい、身振りで「赤ちゃんの心臓だよ。」と伝えました。その時の彼女の表情は、今でも忘れられません。ビックリして、感動して、とても嬉しそうなハニカミ笑顔。
その後、お母さんは無事出産し、産後のケアを受けるため、わたしたちの病院へ入院しました。お姉ちゃんは今まで見たことのないような満面の笑みで、赤ちゃんのお世話を一生懸命していました。それを見つめる、お母さんの穏やかな笑顔。
赤ちゃんの耳が聞こえているかどうかは、まだ分かりません。聞こえていても、聞こえていなくても、きっとこの温かい家族に囲まれ、この子はすてきな女の子に成長していく。
日本の何倍も、赤ちゃんや子どもたち、お母さんが亡くなっているカンボジア。この子が、無事に産まれてきてくれたことに感謝すると共に、この先も元気に成長してくれるように心から願いつつ、これからもわたしたちは、お母さんと赤ちゃんの命を守る助産師としてここで活動していきます。
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カンボジア駐在助産師 Minami Kikuchi