活動レポート

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「いつ息が止まりましたか?」

up 2019.05.21

今、カンボジアは一番気温が高くとても暑い時期です。
おまけに国内の電力不足のため毎日、日中は午前か午後に計画停電が行われています。もう宿舎の猫ですら暑さでしんどそうです。

カンボジア 看護師 ボランティア

さてさて、そんな灼熱のカンボジアの私たちの病院では救急患者さんの受け入れも行っています。
私も研修生時代から含め1年ここで活動をしていますが、心肺停止の状態で運ばれてきた患者さんは数名いらっしゃいます。

初めてここで心肺停止の患者さんの対応をした時のことです。私は心臓マッサージや人工呼吸、薬剤の投与など蘇生の処置を行っていました。日本人ドクターが通訳を介し家族から情報を集めます。倒れてどれくらい時間が経っているか。事故だったのか、突然家で倒れたのか、もともと病気があったのか。
しかし、処置をしている私たちになかなか情報が伝わってきません。突然のことであり、家族の動揺があるのはもちろんですが、家族が医師からの質問を理解して答えをうまく伝えられない様子でした。結局家族がいつ具合が悪くなったか答えられたのは、私たちが処置を始めてしばらく時間が経ってからのことでした。

「2時間くらい前から息をしていない」

やっと家族が情報を伝えることができました。
2時間心臓が止まっているとなるとそれはあごの関節も硬直してくるような状況です。実際に顎は固くなりはじめ、瞳孔も大きく開いています。その状況では処置を継続しても助けることが難しく、家族に心臓マッサージや人工呼吸を止めることを説明します。
しかし、家族にとってはそのことの意味もなかなか理解ができません。家族が理解できるまで、納得できるまで説明を繰り返しました。私たちはその間も、患者さんの心臓マッサージや人工呼吸を続けます。もちろん、助からないとわかっていながら続ける心臓マッサージは葛藤があり、患者さんの苦しみを助長しているのではという思いもあります。家族が時間をかけてその意味を理解し患者のもとに泣きながら寄り添い始めたとき、私たちは心臓マッサージの手を止めました。

私たちは教育を受けてきた中で、相手の言葉を理解すること、順序立てて説明すること、伝わりやすいように話すことを少なからず自然と身につけているのだと思います。また、心臓が止まって時間が経ってしまうと助からないことも一般的な知識として知っています。延命治療を望むかどうかについて、家族と話したことがある方も多いのではと思います。

カンボジアでは教育を受けてきていない人も多いことからか、うまく理解して伝えることができないケースがよくあるように思います。身内の命が危ない状況ならなおさら、うまく伝えられないと思います。AEDやBLS(心臓マッサージや人工呼吸といった一次救命処置)の知識の普及もまだまだです。延命治療をするかしないかなんて先端医療がある先進国の人の悩みなのかなと思います。

私はこの症例を振り返って日本人の感覚で、日本人のペースで質問をしていてはいけない、そう強く思いました。情報収集には時間がかかる可能性があるからこそ、なるべく早くから必要な情報から優先順位をつけて聞いていく必要があると感じました。

カンボジア 看護師 ボランティア

つい先日も夜勤中、交通事故にあった女の子が心肺停止で運ばれてきました。
新人カンボジア人ナースが小児病棟で勤務していた私のところに走ってきて「患者の呼吸が止まっている!助けて!」と伝えてくれるのです。通訳さんのいないその日、クメール語が話せない私たち日本人では詳しく状況が聞けません。

正直心臓マッサージをするよりも人工呼吸をするよりも、一番難しいかもしれない緊急時の問診ですが、新人の彼女にしてもらうしかありません。家族から情報を得るよう具体的に指示を出します。新人ながらに一生懸命事故の状況を聞いてくれます。「いつ呼吸が止まったかわからないけど、ここに来るのに30分かかったから、たぶん事故にあって30分以上は経っています」「バイクとの事故です」と逐一、蘇生処置を続ける私たちに情報をくれます。ひき逃げということも途中で分かり、憤りを覚えながら、「どうにか」という思いで処置を続けます。

カンボジアでは病院にかかることは大ごとなので、患者の家族や多くの親戚が病院に駆け付けます。時には20人くらいの家族が病院におしかけてきます。その時も誰がお母さんとお父さんかわからないような状況でした。多くの混乱の中、家族関係を確認したり、事故の状況をよく知る人から情報を得ていくのもまた難しいです。残念ながら、女の子を助けることはできませんでした。

日本人が建てた病院で多くの日本人と一緒に働いていると、日本のような感覚になってしまうのですが、ここはカンボジア。患者さんももちろんカンボジア人です。

「いつ息が止まりましたか?」

そんな質問への返答一つから、多くの文化の壁、言葉の壁、ほかにもいろいろと考えさせられました。いつか新人ナースの彼女が、緊急時にも現場の指揮をとりながら活躍する日を夢見て、突然奪われた尊い命を無駄にしないように今日も頑張ります。

カンボジア 看護師 ボランティア

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