スレイリアップは、横紋筋肉腫といういわゆる「筋肉」になるはずだった細胞から発生する悪性腫瘍で入院中の11歳の女の子。3歳の時に口腔に塊が見つかり、チャリティー病院で腫瘍摘出手術を 行った後の経過観察のなかで腫瘍が再発しました。
呼吸も困難になってしまうほど腫瘍は大きくなり、二度目の手術で横紋筋肉腫であることが判明し、ジャパンハートこども医療センターを紹介され昨年7月にやって来ました。
病院の中でも1、2を争うやんちゃな子で、いつも周りにちょっかいを出して、時には仕事中のスタッフを困らせたりする場面もありますが、闘病中でも明るい彼女には皆が笑顔にさせられます。
そんな彼女が熱心に参加しているのが、定期的に院内で行われているレクリエーション活動です。2023年から、入院中でストレスを抱えがちな子どもたちが新しいことに触れる機会を与える取り組みとして、日本人の学生インターンが中心となって、日本の水族館とのライブ中継やプラネタリウムなど様々な企画を行っています。
この取組みのなかでスレイリアップが特に才能を発揮したのは、絵を描くことです。社会問題をアート・デザインで解決しようとカンボジアで活動するSocial Compassという団体が月に一度、当院まで来てアートのワークショップを行ってくれており、毎月違ったテーマで絵が描けるので、長期入院中の子どもたちも毎回楽しみにしています。
入院する前から絵を描くことが好きだったスレイリアップは、このワークショップに熱心に参加していて、特に描くことが多いのは自画像です。将来の自分を考えて描いているようで、金髪の自画像も。彼女は金髪にしたいわけではなく、想像の中で何にでもなれる自分を楽しんでいるのかもしれません。
長期間の抗がん剤治療を受け、ついに退院が決まりました。
「治療は大変だったけど楽しいこともたくさんあった。だから退院は嬉しさ半分、寂しさ半分。退院しても絵は描き続けたいな」―最後のワークショップでそう答えてくれました。入院生活がはじまってから10カ月後の5月17日。病院から車で5時間ほど離れた故郷へ、最後まで明るく笑顔で帰っていきました。彼女と会えなくなるのは寂しいですが、退院したら学校に行って、友達と遊んで、絵を描いてくれることを願っています。育ち盛りの彼女たちが、病気のせいで子どもらしい時間を過ごせない。そんな子どもたちが前向きに病気と闘える環境を作るために、試行錯誤しながらスタッフたちでアイディアを出し合って実現させています。
ここに入院する子どもたちが、病気によって様々な機会を奪われないように、スレイリアップのように前向きに病気と向き合える子が増えていくように―これからもこの地で、心を救う医療を目指していきます。
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Japan Heart News2024年夏号に掲載したカンボジアの小児がん患者、スレイリアップの記事を転載しております。
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ジャパンハートこども医療センター スタッフ 小林裕二(2024年6月時点/現在はミャンマー事業部)
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カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動