昼夜を問わず、入院している子どもたちにずっと付き添い、精力的にサポートをしているご家族の光景が印象的な小児病棟。大半の子どもたちにはお母さんが付き添っているなか、がんと闘っている弟に付き添うお姉ちゃんの姿がありました。
スレイノウちゃん。19歳。
弟のラフウくん(11歳)の付き添いで、毎日小児病棟で寝泊まりをしています。
現在、姉として付き添っているのは彼女ただ1人です。
どうしてまだ19歳の彼女が保護者として弟の入院生活に付き添うこととなったのか。何を思い、何を考えながら日々を過ごしているのか。
今回の小児がん病棟日誌では、彼女の秘めた思いについて特集します。
4人姉弟の長女として
スレイノウちゃん。19歳。
カンボジア南部に位置するカンポット州出身で、6人家族の長女として生まれました。
妹が1人、弟が2人おり、入院しているラフウくんは4人姉弟の3番目。
病院に来る前はサッカーやバレーボールなどをして遊ぶことが大好きな男の子だったそうです。
ラフウくんは現在、右掌横紋筋肉腫という病気と闘っています。
プノンペンの病院で悪性腫瘍だと診断されましたが、経済的な理由から抗がん剤治療を受けることができず、今年の1月にジャパンハートこども医療センターにやってきました。
入院当初はお父さんが付き添いをしていましたが、両親共働きで忙しく、長期間付き添うことはできないという理由で2月からスレイノウちゃんが付き添うこととなりました。
他の付き添いのお母さんたちとも仲が良く、入院している子どもたちにとってのお姉さん的存在でもあるスレイノウちゃん。小児病棟でイベントをする際や、小さな子の面倒を見なければいけない時、進んでサポートしてくれる姿が印象的です。
そんな心優しい彼女ですが、ジャパンハートこども医療センターに来るまでどんな生活を送っていたのでしょうか。
スレイノウちゃん(左から2番目)。4月に実施されたSocial Compassさんのアート教室にて。
14歳で学校を辞め、16歳で結婚
カンボジアの教育制度は、日本と同じ6・3・3制です。彼女は6年間の初等教育(小学校)を終えた後、中等教育に進みました。
日本の中学1年生に当たるgrade 7まで通いましたが、家庭の経済的な事情で学校を辞めざるを得ませんでした。その当時、彼女はまだ14歳でした。
カンボジアは最初の9年間は義務教育と定められている一方で、経済的な理由や早婚など、様々な理由で学校を辞めてしまう子どもが存在する現実があります。
その後、1年間工場で働き、16歳の時に結婚して仕事を辞めたそうです。
1年間パートナーと共に暮らしましたが、17歳の時に離婚。
その際に男の子を1人授かり、シングルマザーとして子育てに追われる生活が始まりました。
スマートフォンの待ち受け画面には可愛い息子の写真が。
私たちに動画や写真をよく見せてくれます。名前はティーくん。
今は実家にいる家族に面倒を見てもらっているそうです。
1歳年下の妹は現在高校生。
「妹は勉強を続けながら働いているよ。」
と教えてくれました。
両親は海鮮物を売る仕事をして生計を立てているそうです。
昨日より笑顔になれる今日を目指して
「退院できたら、いつか我が家に招待したい!私の故郷を案内してあげる!」
と笑顔で話してくれたスレイノウちゃん。
他の付き添いのお母さんたちと励まし合いながら、明るく過ごせていることは楽しい。
でも、家に戻れないのはつらいし、家族が恋しい。
早く家に帰りたい。
そんな本音も語ってくれました。
1児の母として、そしてがんと闘うラフウくんの姉として、19歳の彼女が背負っているものは大きすぎるかもしれません。
子どもたちを対象としたアクティビティだけでなく、付き添っているご家族の方々を対象に、心休まる機会を作ることはできないか。そんな思いから、ティーカップを片手に付き添いの方々だけで集まり、ゆっくり語り合う「お茶会」が昨年度から始まりました。
先日もお茶会が行われ、まだまだ改善の余地はありますが、試行錯誤しながら今後も継続していく予定です。
お茶会の様子。
小児病棟に顔を出すと、いつも笑顔で駆け寄ってきてくれる子どもたちやちょっかいを出してくる付き添いのお母さんたち。
毎日、私たちの方が元気と愛情をもらっています。
昨日より今日の方が、今日より明日の方が、笑顔になる回数が増えるように。
「つらいこともあったけど、あの病院なんか楽しかったな」という記憶で退院できるように。
一緒に病気と闘った友達との思い出がそうあってほしいと願います。
『心を救う医療』とは何かを考えながら、子どもたちや付き添いの方々が日々の生活でストレスを溜め込まないための仕掛けやワクワクして夢中になれる魅力的なイベントをこれからも考えていきたいです。
長期学生インターン 畔上颯馬
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カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動