前任の米倉検査技師から引き継いだ「検査技師だより」も今回で7回目となりました(米倉検査技師の頃から数えると11回目)。
これまでカンボジアの病院での臨床検査技師の業務について色々な角度からお伝えしてきましたが、今回は「輸血」についてお伝えしたいと思います。
貴重な血液製剤を無駄にしないために
カンボジアの医療機関はどこも慢性的な血液製剤不足に悩まされています。
国立の献血センターはあるもののストック不足が常態化していて、手術や帝王切開分娩など事前に輸血ニーズが分かる場合には、前もって患者の家族や友人が献血センターで献血をし、その人数分の血液製剤を手に入れられるという「物々交換」のような仕組みが取られているのです。
ジャパンハートの病院でも患者の家族に献血センターでの献血を呼びかけたり、定期的に一般向けの献血イベントを開いたりして血液製剤の確保に努めていますが、緊急で輸血が必要になった場合には病院のスタッフが院内で献血をすることもあります。
そんな貴重な血液製剤ですので、有効期限の管理を担当する臨床検査部としては、医療資源を無駄にしないための仕組みづくりが大きな課題です。
今回、2023年6月から10カ月間の発注状況と患者への使用のデータを確認したところ、発注時に想定していた患者とは別の患者に使われた血液製剤が約3割に上ることが分かりました。
また、全体の13%近くの血液製剤が廃棄処分となっていました。
臨床検査部では血液製剤のストックの状況を把握し、有効期限が近いものについては医師に情報共有して可能な限り廃棄せず活用できるようにしていますが、今後、管理体制の改善策について検討していきたいと思います。
具体的には臨床検査部と医師チームの間で血液製剤に関する情報共有をさらに増やし、発注した担当医との間で血液製剤の使用の有無を確認すること、また、仮に使用予定がなくなったのであればそれについても確実に情報共有する仕組みを作っていきたいと思います。
輸血前の検査について
また、「輸血前の検査」も臨床検査部の重要な役割です。
この検査は輸血用の血液製剤と、輸血を受ける患者の血液との適合性を調べるもので、血液型不適合による重大な副作用が起こるのを防ぐために欠かせません。
仮に血液型不適合の血液製剤を輸血してしまった場合、血液型抗体に起因する「抗原抗体反応」を起こし、最悪の場合、死に至ることもあります。
そこで臨床検査部では、輸血用の血液製剤と患者のABO型・Rh血液型を調べた後、患者と血液製剤の適合性を調べる「クロスマッチ」と呼ばれる検査を行い、副作用が起こるのを未然に防いでいます。
この検査、現在のように病院に長期ボランティアの臨床検査技師が常駐する前は、看護師さんが行っていたと聞いています。
しかし、「クロスマッチ」は操作の煩雑さや判定の難しさから、看護師業務の傍らで行うには負担が大きいように感じます。
臨床検査に関わることは臨床検査技師が行うことが望ましいので、緊急で輸血前の検査が必要になった場合などでも、臨床検査技師が検査を行える体制づくりが必要だと考えています。
ここまで臨床検査業務のひとつである輸血検査に関して報告しました。
引き続き、輸血用血液パックの管理体制や血液型及び交差試験の手技に関しての改善等を検討して行きたいと思います。
森三郎 カンボジア長期ボランティア / 臨床検査技師
2023年12月からカンボジアで検査技師として活動しています。40年間臨床検査技師として総合病院で勤務し、これまで経験した知識と技術を海外ボランティアという形で社会貢献できればと考えジャパンハートに応募しました。自身のスキルアップ、レベルアップに繋げていきたいと思います。
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カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動