カンボジアの「ジャパンハートこども医療センター」で長期ボランティアの臨床検査技師として活動する森さん。
国内の病院で40年間勤めあげた経験とノウハウをもとに様々な場面で活躍していますが、なかでも森さんが専門とするのが「微生物検査」です。
利用できる医療設備も含めて日本の病院とは大きく異なる環境で、どのような工夫をこらしているのか。「検査技師だより」で詳しく伝えてもらいます。
カンボジアでの微生物検査
「微生物学検査」は感染症の診断と治療に用いられる、とても重要かつ迅速性が求められる検査です。
微生物は肉眼では見えないので、日本の病院では微生物検査のための多くの機器等を準備した上で、細かなプロセスに分けて検査を行っています。
また、結核菌のような空気感染の対策のためにも、こうした医療機器や設備は欠かせません。
こうした様々な準備が必要なこともあり、日本の病院でも病床数が多く、独立した微生物検査室があり、必要な機器が整った施設でのみ微生物検査を実施するという傾向があります。
こうした設備がない病院は外部委託による微生物検査に頼らざるを得ない現状があります。
日本国内でもこうした状況ですから、「病院で微生物検査を行う」ということのハードルがいかに高いかお分かりいただけると思います。
カンボジアの「ジャパンハートこども医療センター」は、寄付金で運営される病院ということもあり、高価な医療機器を導入することは簡単ではありません。
そうした限られた医療設備でも、臨床検査部では「グラム染色」という微生物検査を行っており、日常的に診断や治療に繋げています。
カンボジアでのグラム染色
「グラム染色」とは主に色素を使って細菌類を染色する検査法です。
迅速に、かつ低コストで検査できるため多くの医療機関で実施されていますが、その反面、正しく検査するためには迅速かつ確実に検体を採取することが重要で、 高い知識と経験が求められる検査でもあります。
「ジャパンハートこども医療センター」でのグラム染色の依頼は、皮膚や軟部組織の感染症が多いように思います。
検査は、「スライドガラス」と呼ばれる小さなガラスを使って行い、依頼を受けると検査技師はスライドガラスをもって検体を採取する現場に向かい、できるだけ常在菌が混入しないよう、検体の取り方についても医師や看護師にアドバイスして採取してもらいます。
そして採取した一部をスライドガラスに薄く塗布し、自然乾燥させた後、「グラム染色」に移ります。分かりづらいですが、上のシンクのような場所で作業している写真が、グラム染色の様子です。
専門家としての知見活かし 依頼急増
一連の作業を終えた後、顕微鏡で観察し、細菌ごとに色の付き方が異なる特性を利用して検査結果を特定します。
以前は医師が染色作業や顕微鏡の確認を行うこともあったようですが、私が日本で長く微生物検査を担当していた経験を活かして、今は一連の作業全てを検査技師が行っています。
結果についても医師と直接ディスカッションできるようになり、件数も活動を始めた月は8件だった依頼が、翌月は33件、翌々月は18件と増加傾向にあります。
今後は、今までこの病院ではグラム染色の対象としていなかった感染症にも対象を広げ、カンボジア人臨床検査技師の教育や、医師へのレクチャーを通してグラム染色の重要性を伝えていきたいと思います。
森三郎 カンボジア長期ボランティア / 臨床検査技師
2023年12月からカンボジアで検査技師として活動しています。40年間臨床検査技師として総合病院で勤務し、これまで経験した知識と技術を海外ボランティアという形で社会貢献できればと考えジャパンハートに応募しました。自身のスキルアップ、レベルアップに繋げていきたいと思います。
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カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動