外科医の松永医師。1年の半分は北海道、もう半分はカンボジアという生活を続け、「ジャパンハートこども医療センター」の診療活動全般を支えています。
「仕事でも生活でも、カンボジアの人たちから学ぶことが多い」と話す松永医師。
これまでの経緯や活動への思いを聞きました。
どうしてカンボジアに来ることになったのでしょうか
最初は2018年に1週間の短期ボランティアとして「ジャパンハートこども医療センター」に来たのですが、きっかけになったのは旧友の言葉でした。
10年ほど前、ある飲み会の席で久々に会った同級生から「松永は学生のころ医者になってアフリカに行くって言ってたけど、あの夢はどうなったんだ」と言われました。
思えば高校時代、シュヴァイツァーの自伝を読んでその生き方に憧れ、同じような志を持つ同級生と夢を語り合っては「医者になってアフリカに行こう」という話をしていました。
ただ、実際に医師となって働き始めてからは、そんなことはすっかり頭から離れていて、その一言で久しぶりに思い出したくらいです。
その場では「現実には難しいよ」とお茶を濁したのですが、それからたびたび〝アフリカの夢″が脳裏に浮かぶようになりました。
そんな時、参加した学会でたまたま吉岡秀人医師の講演を聞きました。
それまでは海外での医療支援といえば若手の医者が行くものだと思っていましたが、「何歳でも歓迎する」という言葉に当時48歳だった私は心を動かされました。
それでまずは現地を見てみようということで1週間の短期ボランティアに参加したんです。
1度きりではなく、長期ボランティアとしてカンボジアに戻られたのはどうしてですか
1週間の滞在でしたが、「今からでも遅くない。カンボジアで医療をやりたい」と思いました。
最初の滞在時、たまたま同じタイミングでボランティアに参加していた耳鼻科医、形成外科医と一緒に3人で甲状腺や鼠経ヘルニアなどの手術をしました。
どれもそれほど大きな手術ではありませんでしたが、手術が終わると大勢の家族が患者のストレッチャーを取り囲んで手術の成功を大騒ぎで喜んでいました。
手術を受けられたということ、それだけでこんなにも喜んでくれるのかと、歓喜に沸く家族の笑顔が頭から離れませんでした。
一緒に働いたカンボジア人の若手スタッフの熱意や貪欲さにも心を打たれました。
謙虚でありながら、日本人から何でも学び取ろうという意欲が伝わって来て、「夢のアフリカではないけれど、こうした場所で働くのは非常にやりがいがある」と感じました。
ただ、当時は北海道の病院に勤務していたので、現実的には年に2~3回、短期ボランティアに参加することが限界かなと思っていました。
ところがある時、道内で開業している医師の先輩が「半年うちで働いてくれれば、あとの半年は好きに過ごしていいよ」と提案してくれたのです。
家族もいる身でボランティア活動だけを長期で続けることはできないと悩んでいましたので、両立する方法を提案していただき、心から感謝しています。
「ジャパンハートこども医療センター」で長期にわたって常駐する日本人外科医は松永医師1人です。活動にあたっての苦労などはありますか
「苦労」というのはないような気がします。
最初に半年間のカンボジア生活を始めたのは2021年2月だったのでまだ新型コロナウイルスによる混乱が続いていましたが、人手も医療資材も限られたなかで、工夫しながら出来ることをしていました。
2021年4月からはプノンペンを対象にロックダウンが始まり、小児がん患者を守るためにしばらく手術活動を中止することになりましたが、最初の年は半年間で235件の手術を行いました。
コロナの影響が少し落ち着いた2年目は手術件数も増え、半年間で440件の手術を実施しました。
手術は可能な限りカンボジア人医師に任せている
ジャパンハートは最終的に「カンボジア人だけで病院を運営できるようにする」ことを目指し、医療者の育成に力を入れています。
そのため手術の執刀も可能な限り、カンボジア人医師たちに任せるようにしています。
カンボジア人医師たちは非常に優秀です。一を聞いて十を知り、手術はほぼ一回で覚えます。
私は手術の手助けはしますが、それ以外の部分ではカンボジアの人たちから教わることばかりだと感じています。
ジャパンハートでは「モバイル診療」という病院外での医療活動も行っていて、車に薬や手術機材を詰め込んで地方の診療所や病院へ出向きます。
このモバイル診療でカンボジアの田舎に行くと、人生で1度も病院にかかったことがない、健診すら受けたことがないという患者さんにたくさん出会います。
真っ黒に焼けて皮が厚くなった手、節々が変形してしまった体を見ると、炎天下でずっと働いてきたことが手に取るように分かります。
そういった患者さんの手術に関わることができた時、そして少しでも症状を和らげられた時、この活動をしていて本当に良かったなと思います。
帰国の日 2022年11月
この先の目標やヴィジョンはありますか
この病院で腹腔鏡手術ができるようにしたいと考えています。
カンボジアでも首都・プノンペンに腹腔鏡手術を行っている病院はありますが、治療費がとても高額で相当なお金持ちしか受けられません。
カンボジア人の医師たちに腹腔鏡手術の技術を受け継ぎ、経済的な状況に関わらず、必要な人が必要な手術を受けられるようにすることが目標です。
この病院には吉岡秀人医師をはじめ、日本からたくさんの小児外科医や外科医が来て手術活動を行います。
カンボジア人の医師たちには、色々な医師の技術に触れるなかで良いなと思う部分を選び、自分の技術として確立させていってほしいと思います。
カンボジアでの半年間の医療活動を始めて今年で3年目になりますが、最近はカンボジア人医師どうしで教え合う姿も見られるようになり、心強く感じています。
私がここで直接、指導できる人数は限られていますが、私が教えた世代からそのまた次の世代へと知識や技術が受け継がれていけば嬉しいなと思います。
松永 明宏 医師
熊本県出身。外科医として北海道各地の病院で勤務した後、「ジャパンハートこども医療センター」の短期ボランティアに参加。その後、2021年2月からは半年間の長期ボランティアとして、1年の半分を日本、もう半分をカンボジアで過ごす生活を続けている。
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カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動