活動レポート

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【Voices of Japan Heart】Vol.2 森川晶子 医師(産婦人科)

up 2023.08.14

カンボジアにある「ジャパンハートこども医療センター」では、現在、総勢100人以上の日本人とカンボジア人のスタッフが勤務しています。
それぞれのスタッフがなぜジャパンハートで働くことになったのか、そして、日々どのような思いで勤務しているのか、1人ひとりの“声”をお伝えします。

Vol.2  森川晶子 医師(産婦人科)

産婦人科の森川医師。公立病院での勤務後、約4年前から日本とカンボジアを往復する生活を続けています。
ジャパンハートの活動に参加することになったいきさつや思いを聞きました。

ジャパンハートとの出会いを教えてください

もともと発展途上国で働くことに興味があり、産婦人科医になった時にも「いつか発展途上国の産科医療に関わりたい」と考えていました。けれど、仕事や子育てに追われ、気付けばそんな夢も忘れていました。

日本で働いていた頃は専門が「婦人科腫瘍」で主に手術・抗がん剤治療を行っていましたが、地方の病院なので総合周産期母子医療センターもあり、切迫早産や重症合併症妊婦の管理、極小未熟児の帝王切開など何でもやっていました。

ただ、忘れたつもりでも心のどこかには「いつか発展途上国で」という気持ちが残っていたのでしょうね。
親を看取り、次男の大学院卒業の目途が立った頃、最後に自分自身が何をやりたいのかと考えた時に真っ先に浮かんだのが「産婦人科の医師としてもう一度お産に関わりたい。それも発展途上国のお産に関わりたい」ということでした。

本当は60歳くらいで仕事を辞めて、それから1年くらい留学して英語を学んで…、とか色々と計画を立てていたのですが、病院を退職した時の年齢が63歳でした。
もう留学している余裕はないなと。それで働けるところを探し始めた時にジャパンハートのことを知りました。

最初は何度か短期でカンボジアに来たのですが、当時は「周産期事業部」はあったものの妊婦健診が中心で分娩には対応していませんでした。少し違うかなと、別の団体を見に他の国に行ったこともあります。
ただ、何度目かに来た時、助産師の西川さん(今年5月までカンボジアで活動)に「一緒にここでお産をやりましょう」と声をかけてもらったんです。それで本格的にジャパンハートでの活動を始めました。

コロナで渡航が難しい時期もありましたが、日本とカンボジアを約2か月おきに往復する生活を4年ほど続けています。

カンボジアでの活動はいかがですか

「貧しい人たちに医療を届ける」ということの難しさを痛感しています。

特に婦人科では、経済的な課題が深刻です。
「ジャパンハートこども医療センター」では、18歳以下の子どもに対しては完全無償で医療を提供していますが、19歳以上については検査や治療費の一部を負担してもらっています。

例えばがんの病理検査をするのに25 USドル(日本円で約3500円)かかるのですが、そのお金を払えない人がたくさんいます。CT検査はもっと高額です。

この病院では大人に対しても手術は無償で行っていますが、がんは手術で腫瘍を取り除くだけではなく、抗がん剤や放射線治療が必要な場合があります。継続的な経過観察も必要です。
抗がん剤治療にもお金がかかるのですが、そのお金が出せないために、せっかくこの病院までたどり着いて手術を受けても、途中で治療を諦めてしまう人が少なくありません。

でも手術を受けて喜んでくれる人もいます。去年、お腹に大きな腫瘍がある患者さんの手術をしました。
手術をすることが決まった時、「ようやく手術を受けられる」と患者さんの家族が泣いて喜んでいた光景がとても印象に残っています。

その家族も経済的な余裕はなく、手術後に必要な追加の治療はおそらく受けられないだろうと分かっていました。
医師としては手術だけでは一時しのぎの対策でしかないというもどかしさもあります。
それでも、手術を受けられたということ、医療を受けられたということが少しでも本人と家族の幸せにつながったのであれば手術してよかったなと考えています。

どのような時にやりがいを感じますか

カンボジアでは、ちょっとした工夫で防げたはずのことで命を落としてしまうケースがたくさんあります。

妊娠や出産についての先進国の「当たり前」が当たり前でないことも少なくありません。
生まれてくる命、そして生まれてきた命を守るために、現地の医療者を育てること、そしてお母さんたちに正しい知識を伝えることを大切にしています。

最終月経も分娩予定日も分からない。妊婦健診すら受けたことのない妊婦が多数います。
そうしたなかで、妊婦健診を通して女性の体の変化や食事、衛生面の重要さを伝えられればと思っています。

周産期死亡や乳児死亡を減らし、不幸な妊娠や感染症を防ぐためにも女性自身が体の仕組みを知ることが大切です。
妊婦健診や分娩後の管理を通して、そのことを伝えていきたい。
少しの工夫で防げることで失われる命がなくなるように、今まで当たり前でなかったことを当たり前にできるように、私にできる手助けをしたいと思っています。

最後に、海外での医療活動に興味がある人へのメッセージをお願いします

「助けたい」「役立ちたい」という思いだけでは難しいのが現実です。
カンボジアでお産を支えたいと思っても、日本とは全く環境が違うので、それなりの技術と経験がなければ危険です。
医師だけでなく看護師も、ある程度の力をつけてから来た方が役立てると思います。

ただ、技術と経験がなければ何もできないということでもありません。
自分が今持っている力のなかで何ができるのか、色々と考えて活動することはできます。
「日本と同じことができないから行っても無駄」ではなくて、自分が持っている力のなかで、そして日本とは違う医療環境のなかで何ができるのか、柔軟な頭で考えながらチャレンジしていってほしいと思います。

森川晶子 医師

青森県出身。産婦人科医として勤めた後、2019年7月からボランティア医師として「ジャパンハートこども医療センター」で活動。日本とカンボジアを往復する生活を続けている。


▼プロジェクトの詳細はこちらから
カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動

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