こんにちは!栄養管理部の溝口です。
小児がんと闘う子どもたちが多く入院するカンボジアの「ジャパンハートこども医療センター」。
栄養管理部では食事を通して子どもたちの治療を支えています。
患者さんの症状はさまざまで、なかには口に腫瘍ができて思うように食べられない子どももいます。そういった場合には、栄養士と調理スタッフ、そして医療者が一丸となって、どのように患者さんに栄養をつけてもらうか工夫をこらしています。
今回は、栄養から治療を支える現場の裏側をお伝えします。
(報告:カンボジア 栄養管理部部長 溝口喜子)
“噛めない” 試行錯誤の連続
今回は、「左下顎横紋筋肉腫」というがんで入院した12歳の男の子への栄養ケアについてお話させていただきます。筋肉のもとになる細胞から発生するがんで、この男の子は腫瘍が口の中に広がっていました。
食べ物を噛めないためまともに食事ができず、入院前の1ヶ月で体重が5㎏も減ってしまったとのことでした。見るからに痩せていて、自力で立ち上がることもできない状態でした。
これ以上の栄養不良の悪化を食い止めるためにどうすれば良いか。
私たちは特別食の開発に取りかかりました。
この男の子は口で噛めないだけでなく、おなかが張りやすいため、少量で充分な栄養をとれるような「飲める食事」つまり、流動食が必要です。
さっそくバナナや鶏肉などを使って、専用の流動食を作成しました。
試食したところ味は「まあまあ」。
しかし、口に合わなかったようでほとんど受け付けてもらえませんでした。
どうしたら飲んでもらえるだろう・・・?
次に思いついたのは、カンボジアの「ボボーカップクルックルーン」という具入りおかゆです。
これを参考にカンボジア人の調理スタッフと試作を重ね、栄養基準を満たしながらも食べ慣れた味の流動食になるよう調整しました。
【栄養士と調理スタッフとの議論の末完成した流動食】
“作ることがゴール”ではない
栄養は流動食ができればそれで終わりではありません。
食欲が落ちている中でも、これ以上の栄養状態の悪化を防ぐために、患者さんには食べる努力をしてもらう必要があります。これには食事を食べさせる患者家族の協力も必要で、始めはその協力すらもなかなか得られず苦労していました。
そこで「食べるスケジュールを決める」、「食べられたら家族や患者さんを褒める」といった食べるための支援を栄養士・調理スタッフ一丸となって毎日地道に行いました。
【調理スタッフが食べるスケジュールについてアドバイス 】
食べてくれる喜び スタッフにも変化
私たちの気持ちが伝わったのか、家族は徐々に一生懸命食べさせるようになり、食べられた時には嬉しそうに報告しに来てくれるようになりました。
また、患者さん自身からも笑顔が見られるようになりました。
さらに、作る側の調理スタッフにも変化がありました。
患者さんの食欲がない時には「今日はあんまり食べられてないみたいなんだけど補完食あげていい?」と質問が出るようになり、患者さんを支えたいという気持ちが強まってきたように感じました。
これまで栄養士が特別調理をお願いする形ばかりでしたが、調理スタッフから提案してくれるようになり関心の高まりを感じました。
こうした努力と治療の効果によって、男の子の体重は減少から増加に転じ、調子の良い時には病棟を歩き回ったり他の患者さんと遊んだりするほどにもなりました。
【補完食としてさつまいもシェイクを提供しました】
医療者とも連携 治療の根幹を支える栄養
今もまだ、男の子の闘病は続いています。
普通の食事に戻れた時もありましたが、腫瘍が再び大きくなってしまい、現在はチューブを使った栄養補給を行っています。
治療は一筋縄で行かず、私たちのできることの少なさに無力さを覚えてしまうこともあります。
【左:手作り経管栄養剤がチューブを通るか実験 / 右:経管栄養の様子 】
しかし、試行錯誤を続けるなかで、医師や看護師からも栄養について多くの相談や質問を受けるようになりました。
やはり栄養が治療の根底を支えているのだと、改めて気付かされます。
これからも、私たちでできる最大限のサポートを患者さんに提供したいと思います。
溝口 喜子 栄養管理部部長 / 栄養士
2022年6月からカンボジアで栄養士として勤務している溝口です。 大学卒業後は民間企業に就職しましたが、そこから管理栄養士養成校(大学)に入りました。給食提供・栄養教育を通じて多くの方の心と体の健康を支えられるようがんばります!
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医療支援 | カンボジア ジャパンハートこども医療センター 栄養管理部