ジャパンハートの活動は日本から来る多くの医療者やボランティアに支えられていますが、なかでも経験豊富な数人の医師が海外の現場に入る際は、「〇〇ミッション」と、執刀医の名前を付けて集中的に手術活動が行われます。
病院全体が一層慌ただしくなるこの期間。重い病と闘う幼い子どもたちも特別な雰囲気を感じ取り、いつもとは違った様子で過ごします。
子どもたちは、どのような気持ちでこの期間を迎え、乗り越えるのか。
今回は、ジャパンハート最高顧問の吉岡秀人のカンボジア入りに合わせて行われた「吉岡ミッション」で手術を受けた、ある少年の闘いについて、全3回の連載でお伝えします。
(書き手:長期学生インターン 高橋明日香)
甘えん坊で辛抱強いダラ
私がはじめてダラに会ったのは、今年2月。
インターンとしてジャパンハートこども医療センターに到着し、子どもたちの病棟を訪れた時のことです。
ダラはカンボジア人の2歳の男の子。
激しい腹痛と発熱が1週間ほど続き、自宅近くの病院に行っても症状が改善しなかったことから、去年11月にお母さんがこの病院に連れて来たそうです。
いつもニコニコしていて、一見すると病気を抱えているようには見えないダラですが、検査の結果は深刻でした。
「神経芽腫(しんけいがしゅ)」という「がん」が見つかったのです。
神経の細胞に出来るがんで、5歳以下の子どもの発症率が高いとされる病気です。
すぐに入院し、3月に吉岡医師がカンボジア入りする「吉岡ミッション」にあわせて、手術を受けることが決まりました。
その経緯を聞いた時、私は「どうしてこんなに小さな子が…」とショックで言葉が出ませんでした。
でも、そんな私を励ましてくれたのも、ダラ本人でした。
私は毎朝、入院中の子どもたちの病室を訪ねるのですが、ダラはいつも満面の笑みで迎えてくれ、こちらまで自然と笑顔になります。
「ネアックルー!」(クメール語で「先生」の意味)。
「ネアックルー!」。
少しでも私が別の患者さんと話しをすると、やきもちを焼くのか、一生懸命にベッドの上から声をかけてくる姿も愛おしいんです。
突然、「お散歩しよう」と言うかのように私の手を取って病院内に繰り出すこともあり、そんな時は手をギュッと握ってなかなか解放してくれないので少し困ってしまうのですが、くりくりした瞳で見つめられると、ついつい付き合ってしまいます。
そんな可愛らしいダラには、とっても辛抱強い、大人顔負けの一面もあります。
手術に向けた治療の日々は、たった2歳の子どもにはとても耐えられないのではないかと思うほど、辛く苦しいこともたくさんあります。
抗がん剤治療に、何度も受けなければいけない注射。
特に注射は、恐怖のあまり処置室で泣き叫んでしまう子どもも少なくないのですが、ダラはいつもジッと静かに耐えています。
病室ではニコニコと明るく過ごし、周りの友だちや大人まで笑顔にしてくれるのに、辛い治療の時は1人で耐えて過ごすダラ。
私はこれまで、ダラの涙を一度も見たことがありません。
そんなダラを見て、もしかしたら周りの大人を心配させないように、感情を抑え込んでいるのかもしれないと、私は考えるようになりました。
涙も不安な顔も、見せても良いんだよと教えてあげられるように、この病院ではもっと安心した気持ちで過ごしてほしい。
そして、無事に手術を乗り越えて、より一層輝く笑顔を見せてほしい。
手術日が近づくにつれて慌ただしくなる医療チームを見ながら、私も不安と期待で、気持ちが落ち着かなくなってきました。
前編はここまでです。
明日、お届けする中編では、手術日を迎えたダラの姿をお送りします。
高橋 明日香(学生インターン)
2月から広報業務に携わらせていただいている、学生インターンの髙橋です。応援してくださる皆様の想いとカンボジアにいる患者さんとを、広報を通じて繋げられるよう精一杯頑張ります。よろしくお願い致します。
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医療支援| ジャパンハートこども医療センターでの医療活動