活動レポート

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Japan Heartカンボジアでのお産事情

up 2021.05.19

助産師として、分娩のケアをするのはやはり嬉しいものです。
例えそれが今までに経験したことがないような分娩でも。。。。

カンボジアに来てから2年以上が経ち、「まだちょっとです」と言えなくなってきている、助産師の西川です。

カンボジアのジャパンハートの病院では通常は分娩を扱っていません。それは、産婦人科医がいないからです。
そんな私たちに大きな船を用意してくれた人がいます。産婦人科医の森川先生です。
森川先生は、大きな病院での勤務を早めに離れ、海外の周産期を手伝いたいとジャパンハートの病院に定期的に来てくれています。

今回はコロナの影響でカンボジアに入国した際に義務化されている2週間の隔離を経て、3カ月滞在してくれました。
森川先生の滞在期間中は、隣りにある国立病院のポンネルー病院では対応できないハイリスクの分娩を受け入れています。
ここでいうハイリスクとは、「赤ちゃんが大きくて分娩が難しい」「子宮の出口が全部開いてから長い時間生まれない」「破水してから陣痛が始まらない」などです。
正直、ここでのハイリスク分娩の定義自体が曖昧ですが、簡単にいうとポンネルー病院が「これは難しい」と思った産婦さんです。

こちらの記事では、隣りのポンネルー病院から実際にどんな産婦さんが紹介されてくるのかを紹介します。

まず、一番多いと実感するケースは「赤ちゃんが大きい」産婦さんではないかと思います。
これは妊婦健診をしていても一番大変なところですが、カンボジアでは妊婦さんの体重増加がとても大きいです。そういう妊婦さんは赤ちゃんも大きいことが多いです。
私たちの妊婦健診では赤ちゃんが大きかったり、尿糖が出ていたりすると、妊娠糖尿病ではないかの検査をしますが、カンボジアにある多くの妊婦健診施設ではそのような検査を行っていません。
また、妊娠中の食事の食事や運動についても知らない妊婦さんがほとんどです。
最近ではドリアンをほぼ丸々1個食べてしまったという妊婦さんもいました。
 
次に、一番困るケースは「全開大(子宮の出口が10センチ)になってから分娩が進まない」産婦さんです。日本とカンボジアのお産のスタイルは全然違います。

日本では根拠に基づき、それぞれのケアや処置が行われます。そのため、同じように分娩が進まないケースが搬送されてきた時にも、それまでどのようなケアが行われてきたのかが大体わかります。

しかしジャパンハートの病院で困難なことは、それまでポンネルーの助産師さんが行ってきたケアが私たちの想像と違うことです。

例えば日本では、全開大したとしても、赤ちゃんの頭の位置が下がっていなければ産婦さんにいきんでもらうことはありません。
でもカンボジアでは全開大したら、“いきませる”というのが普通です。
このような場合、産婦さんを診察すると、赤ちゃんの頭の位置はまだすごく高い位置にありますが、会陰部が浮腫み、産婦さんもすごく疲れている様子が見受けられることがほとんどです。

また適切ではないタイミングで、分娩を進めるための薬を実はすでに使ってしまっていたということもあります。
そのため搬送されてきた時には常に不測のケアや処置をふまえた上で産婦さんの状態をアセスメントしなければなりません。

たまに搬送されてくるのが「破水したのに陣痛がこない」という産婦さんです。日本と違うのはその時間です。
日本では破水してから24時間を目安に陣痛を起こす処置をしますが、カンボジアのガイドラインは日本とは異なり破水後8時間経っても陣痛が来ない場合は、搬送の基準となるようです。
そのため、ポンネルー病院から搬送されてきても、特に薬を使用したり、処置をすることもなく、自然と陣痛が始まって分娩になるケースもあります。
そのような時は、私たちにとっては、ハイリスク以外の分娩をジャパンハートのカンボジア人助産師に教える絶好の機会となります。

今回、森川先生の滞在中の3カ月で40件程度の分娩(帝王切開を含む)を受け入れました。

何が起こっているか分からない状態からの分娩をじっくりとアセスメントして経腟分娩にもっていけるのは、長年の経験をもとに大きな懐で一緒に考えてくれる森川先生の存在があるからです。先生の滞在中は緊急の帝王切開も行うことができます。

しかし、まだまだ分娩の安全性が充分ではなく、多産の国でもあるカンボジアでは次の分娩を考えると、帝王切開をすること自体も熟慮する必要があります。
ハイリスク分娩を単に日本のガイドラインにのせるのではなく、一つ一つ赤ちゃんとお母さんの安全を確認しながらベストな方法を見つけていくことは、とても難しいです。
毎回先生のサポートの元、助産師みんなで話し合いながら取り組んでいます。

まだまだ私たちの分娩への取り組みは始まったばかりですが、森川先生という大きな船の上で少しずつこの地域に安全な分娩を届けているように進んでいきたいと思います。

※森川先生がミッションを終えお見送りをしている時の写真

助産師 西川

▼プロジェクトの詳細はこちらから
医療支援| カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動

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