NCPRは、出生時を中心とした新生児を対象とする蘇生法です。
「出生時は人生で最も危機的な状況」と表現されるほど、出生時はすべての赤ちゃんにとって大変危険な瞬間です。
ほとんどの赤ちゃんは出生後10~30秒のうちに元気に産声を上げますが、残りの十数パーセントは軽度なものから高度なものまで、何かしらの手助けが必要と言われており、出生後1分以内に速やかに蘇生を開始できることが、その後の赤ちゃんの予後に大きく関わります。
「沢山参加してくれている様子」
他部門からの協力もあり、当日は予想を上回って23人の助産師・看護師が来てくれました。
この国の分娩の多くを扱うのは主に助産師です。ポルポト政権の影響により、医療を必要とする人々の人口に対する医師の割合はまだまだ少なく、産婦人科医も都市部の病院等の限られた施設にしか在中していません。特に今回対象にしたヘルスセンターという場所には基本的に医師はおらず、助産師のみで分娩を扱っています。
日本の周産期の現場において、分娩に立ち会う助産師や産婦人科医が新生児蘇生を習得しているのは当たり前の光景ですが、ここカンボジアにおいては泣かない赤ちゃんの足をもって揺さぶったり、呼吸の確立していない赤ちゃんに酸素だけ与えて様子を見ていたりと、正しい蘇生法を行える医療者がまだまだ少ないのが現状です。
普段からジャパンハートこども医療センターの看護師向けにNCPRのレクチャーを定期的に行っていますが、今回は現地助産師・看護師が対象という事もあり、現地の分娩を取り扱う環境に合った内容にしようと考えました。
例えばヘルスセンターの分娩室には無いもの。低体温が大敵の赤ちゃんを温めるインファントウォーマー、気道を確保するために使う電動の吸引器、赤ちゃんの体内の酸素濃度をリアルタイムに知ることが出来るSpO2モニター、新生児用の聴診器。
逆にほとんどの分娩室にもあるものは、簡易的な吸引に使用できるバルブシリンジ、呼吸を助ける為のバックバルブマスク、大人用の聴診器。
無いものはないのですから、あるもので最善の蘇生が提供できるように考えました。インファントウォーマーが無いのなら、空調を止めてもらう、できるだけ温かい蘇生場所を確保してもらう。吸引器は無いけれどバルブシリンジはあるならそれを最大限活用する。SpO2モニターがないのなら、チアノーゼや努力呼吸の観察をしっかり行ってもらう、などなど同僚のカンボジア人助産師と共に内容を考えて当日に臨みました。
「参加者の熱心な様子」
参加者は若手からベテランまで、個性豊かな女性たちが予定時間を過ぎても熱心に練習に取り組んでくれました。日本もカンボジアも、助産師は皆パワフルで元気な女性ばかり。興味を持ってもらえ、現場に活かそうという姿勢が見られたことがとても嬉しかったです。
そして当院の助産師たちが主体的に指導している姿も頼もしく、嬉しいものでした。
「Litaが参加者に指導しているところ」
私は学生の頃、日本の新生児死亡率は世界的に低いという授業を受けながら、世界には日本で助かる命が助からない国が沢山ある事実がショックでした。そしてカンボジアに来てその、日本なら助けられたかもしれない命と向き合う日々を過ごしています。
今日もこの国では分娩監視装置もなく、十分な蘇生場所も物品もない環境で多くの命が誕生しています。最終月経も妊娠週数も分からないという女性も沢山います。
ここに来て日々改めて実感させられるのは、多くの命は自分の力で力強く産声を上げることが出来ること。そしていくつかの命は確実に、蘇生を必要とする事。
今回の講習会が小さな一歩でも、一部の地域の小さな変化でも、私たちが考えて行動していくことで、カンボジア国内に蘇生技術を持った助産師が増えていったら、少しずつ、少しずつ、この国は変わっていくと信じています。
今後もNCPRに関わらず、周辺地域の分娩が安全になるようみんなで取り組んでいきます。
「集合写真」
長期ボランティア助産師 福田菜摘
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医療支援| カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動