6月初旬、最高顧問で小児外科医の吉岡と共に2か月ぶりにカンボジアに入国しました。
日本を出国前、カンボジア入国直後、入国2週間後にPCR検査を義務付けられ、移動も含めコロナ禍の世界情勢を身をもって痛感しました。
【静まりかえった空港内、たくさんの寄付物資を自ら運ぶ様子】
カンボジアでPCR検査の結果、陰性であることを証明でき、手術活動を2か月ぶりに再開しました。
手術室が稼働し始めたその日の夜、お腹が痛い男の子が家族に連れられてきました。他院でチフスだと診断され治療を数日間行うも良くならず、実際は虫垂炎が悪化し、腹膜炎を起こした状態で当院に紹介されました。すぐに吉岡による診断が行われ、緊急手術となりました。あと少し経過していたら、この男の子の命は厳しかったかもしれません。手術後、窓際のベッドの上で、徐々に管が減っていく姿を毎日みていて、全員が胸をなで下ろしたことでしょう。お金がない、だから病院に行けない、その結果亡くなるという現状がカンボジアにはあります。戦後、日本は経済大国に急成長し、国民皆保険制度ができ高水準の医療が国民に行き届くようになりました。日本で普通に生活していたら気が付くことがなかった当たり前の医療も、国が違えばこれほどにも質や人々の感覚に違いが出てくるんだなと肌で感じます。この現実に実際に直面した時、行動に移すことのできる場にいることに、恐怖と責任を感じながら業務にあたりました。
3月以降、コロナの影響から日本からの定期的な小児外科チームの派遣が途絶え、この先当分の手術の見通しがたたなくなりました。小児がんの入院患者さんは増え、手術を待っている子どもが沢山いました。成人の患者さんも同じです。毎月あった外科、婦人科、乳腺外科、耳鼻咽喉科の認定医の手術活動も行えず、手術待ちの患者さんが増えていく一方でした。、当院に常駐の外科医はおらず、ボランティアの受け入れもストップした中、6月から7月上旬までの間は、吉岡とここにいる人間、ここにある物でこの期間を乗り越えようと、皆で臨んだ1か月でした。この期間で、小児がんをはじめ、甲状腺、乳腺、婦人科や消化器の疾患、緊急手術、と146件の手術が行われ、慌ただしい時間があっという間に流れていきました。
【緑のガウンの下にポリ袋を切って作った防護用ガウンを着用して手術に臨む様子】
私が吉岡と初めてミャンマーで会ってから3年が経とうとしています。その時ワッチェ病院では、現地の新人医師1名しか常駐しておらず、朝から次の日の朝まで吉岡自身で局所麻酔、腰椎麻酔、全身麻酔と麻酔をかけ、大人から子どもまでのヘルニアや陰嚢水腫、粉瘤、脂肪種、血管腫、植皮、口唇裂、鼻ポリープ、扁桃腺、甲状腺、乳房切除、痔ろう、痔核、腹腔内腫瘍、脳瘤など、とれるものはとり、直すところは直しと、なんでも執刀しており驚きました。ラオスでは桁違いに大きい甲状腺の手術を、そして今カンボジアでは、帝王切開、子宮外妊娠、卵巣嚢腫、卵巣捻転、子宮筋腫といった婦人科手術に加え、総量10キロ以上の腹腔内腫瘍や腸切除、虫垂炎、膀胱摘出、腎臓摘出、予定は変更になりましたが肝切所といった症例も行いました。久しぶりやねん、と言いながら普段はしない手術も、この病院を頼りにやってきて治療を望んでいる患者さんたちのために、できる事は最大限しようという背中を傍で見ていて、我々も誠心誠意努めようとこの期間を過ごしました。
【若手に熱血指導している様子】
小児から成人まで、これ程にも幅広い症例を執刀する外科医が他にいるのだろうか、幾度となく吉岡のバイタリティには驚かされます。今回の滞在では吉岡による術前カンファレンスや術中の指導が細かく行われました。現地のスタッフだけでもある程度はできるように、とCTやレントゲン、エコー所見を医師・手術室スタッフで術式や治療方針についてディスカッションを毎日実施しました。この期間で多くの気づきや学びを得ることができました。次回レポートにてお伝えしたいと思います。
【カンファレンスで術式を検討している様子】
ジャパンハートが活動する3ヵ国の中で活動が再開できたのはカンボジアだけです。依然として入国制限が各国厳しい状態が続いています。いつも応援してくださる支援者の皆さまや今回の渡航に関してお力添えをしてくださった皆さま、すべての方に感謝し、こうして活動が継続できることを幸せに思い、一日一日を大切に過ごしていきたいと思います。
ジャパンハートカンボジア 手術部看護師長 角田千里
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医療支援 | カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動