カンボジアからこんにちは。
わたし達はよくMobileという言葉を使っています。
Mobileってどんなことをする活動かご存知ですか?
ジャパンハートカンボジアには2016年に拠点となる病院がオープンしました。
それ以前はプノンペンにあるジャパンハートのオフィスから車に薬や手術機材を詰め込み、さらにスタッフも乗り込み、地方の病院へ行き診療活動や手術活動をおこなっていました。このように車に荷物を詰め込み動き回る活動をMobileと呼んでいます。
拠点病院ができ一時期ストップしていたMobile活動も2018年に再開しました。今までわたしたちは二つの地方の病院でMobile活動をおこなっていましたが今回新たな州でMobile活動をしようと始まったのがMobile NEXTです。
今回わたしたちが新たな州で始めたMobile NEXTですが、どこでも良いから始めようと思って始めたわけではありません。
Mobileの目的は「医療の届かないところに医療を届ける」です。
医療が届いていないのはどこなのか、医療を必要としているところはどこなのかという調査から始めました。そして、私たちの病院から二時間離れたヘルスセンターでMobileをすることとなりました。
そのヘルスセンターには医師はいません、看護師と助産師で地域の患者さんのケアをしています。一か月に来る患者数は20人(お産も含みます)。
患者さんにどんな治療が必要なのか、医師のいないヘルスセンターでは看護師が診断し治療を開始します。主な疾患は肺炎、デング熱、風邪だとか。「何度もやればなれますよ」とベテラン看護師は笑顔で言います。
緊急の患者さんがいた場合はそのヘルスセンターから二時間離れた大きな病院へ行かなければなりません。整備されていない道路をガタガタと身体を揺らして行きます。大きなくぼみもあり、ちょっとくぼみにはまれば転倒するのでは?と心配になります。
救急車はあります、しかし壊れていて使えません(これはあるとは言わないですね)。
そんなヘルスセンターを新たな活動地とし始まったMobile NEXTは今回で三回目となりました。
ヘルスセンターが見えてくるなり毎回思うのは「今回は患者さんがいるだろうか」です。
Mobile NEXTの一週間前に現地周辺を訪れ事前にアナウンス(Mobile NEXTやりますよ!どんな患者さんでも診察します。体調に不安のある方は来てください!無料で診察します。といった内容を一人一人に話をしチラシを渡しています。)を行っています。
あまり早くやりすぎるとカンボジアの人は忘れてしまうので一週間前にアナウンスを行います。
そしてMobile当日、ヘルスセンターへ到着したわたしが見たのは、とても静かでのんびりとしたヘルスセンターでした。
そう、患者さんの姿は一人も見あたりません。
「なんでだー!!」「みんな頑張ってアナウンスしてくれたよ!!」「いつやるの?って日にちまで確認してくれた人たくさんいたよ!!」
雨の降る時期は道路が水没するなどして患者さんは来たくても来れません。
しかし、今は乾季!!雨なんて降ってな~い。なんで誰もいな~い。
しばらくするとポツリポツリと患者さんが来てくれました。「一度来たんだけど誰もいないから帰ったんだ」と来てくれた患者さんは話します。
開始時間もアナウンスペーパーに書いてたんだけどな。カンボジアは口伝えで広がることが多いです。もしかしたらこの患者さんも噂で聞いて来てくれたのかも、時間までは聞いていないのかもしれませんね。もしくは聞いても忘れてしまったのか。きちんとメモをする人は少ないですからね。
これもカンボジア。
ポツリポツリと来てくれた患者さんも途切れ、住民の姿は見られなくなりました。
やはり行くか!もう一度アナウンスへ!!車に乗り込みアナウンスへ向かいます。
左右に木が生い茂っている細い道を通ります。ここは初めて通るところだなと思っていたら急に道の真ん中に鎌をもった男性が現われました。
なんだ?と思っていたら一人、二人と出てきます。
「やばい盗賊だ!どうする!!車の鍵を閉めないと。」盗賊に出会った時用のマニュアルは?ない!!
そんな思いでドキドキして近寄ると中には女性もいてなんだか穏やかな雰囲気です。なんだ大丈夫だ、そう思い車の窓を開け「この先に人は住んでいるのか」など話をしていると、今度は車の中に何かが投げ込まれました。
「襲撃だ~!!!」「やっぱり盗賊か。しまった」
そう思い慌てているのはわたしだけで、他のスタッフは落ち着いています。
車の中を捜索してみると投げ込まれたのは氷でした。
車の外では、クーラーボックスの中の氷を後ろ向きに投げ捨てている女性の姿がありました。
その氷がたまたま車内へ入ってきただけでした。
後方の安全確認お願いします。
わたし達は車を降り、道の脇に生い茂っている木々の伐採をしている人たちへアナウンスを始めました。
彼らも休憩をします。スイカを切り「食べる?」と言ってスイカを差し出してくれます。なんだか穏やかな雰囲気になりました。
わたしの町内でもよく日曜日はみんなが集まって溝掃除とかしてたな。これもそんな感じかな。
わたしの彼らへの勝手な盗賊の疑いは晴れ、安心して次のアナウンスへ向かいます。
川の近くの家は高床式の造りになっています。「雨期にはここまで水か来るんだよ」と言って示された場所はわたしの身長を超えています。
もしもの時に備えて泳げるようになっておかなければと思いました。
ここに住む人たちはボートを3、4艘持ているんだそうです。雨期にはボートを使い移動します。
実際ボートでMobileへ来てくれた患者さんは何人かいました。バイクだと直ぐの場所でもボートだと倍以上の時間がかかってしまいます。
一日目は少なかった患者さんも二日目にはたくさん来てくれました。
アナウンスの効果ありです。一週間前のアナウンスペーパーを持って来てくれた患者さんもいました。
Mobileには糖尿病や、高血圧、関節痛の患者さんが多く受診してきます。
訴えは一つではなく、たくさんあります。そんな患者さんの訴えをカルテを作成する時、診察の時、薬を渡す時、帰る時にそれぞれのスタッフがゆっくり話を聞いてあげます。
今回診察に参加してくれた医師の中にはカンボジア人医師がいます。彼はジャパンハートから奨学金をもらい医学部を卒業した元奨学金生で今年の11月からわたし達と一緒に働いています。
そして、Mobileには現役の奨学金生も参加してくれています。
「子は親の背中を見て育つ」のように「奨学金生は先輩奨学金生の姿を見て育つ」のだなと微笑ましく思えました。
次は医師となって患者さんの診察をする彼の姿が楽しみです。
まだMobile NEXTは始まったばかりです。
実施する度に問題は出てきます。それを一つ一つ解決しこの地域の人々へ医療を届けていきます。
Mobile NEXTは2020年3月から短期ボランティアさんの募集を開始します。
奨学金生とカンボジアの医療について語り合い、カンボジア人の国民性に触れてみませんか。
カンボジアでお会いできるのを楽しみにしています。
カンボジア在住看護師
藤井祐美子